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AR・エピローグ
その黒い人影。空ろという側面の名前を持った何かは、己が「忘我」であると自覚していた。
ある固定した「意味」に、人影は遠い何時かに取り込まれた。
その「意味」に長くふれていたことで、それと似たことができる。ヒトの記憶を奪う性質を、後天的に持った不死の骸だった。
「――うん。蒼潤君、鶫ちゃんの、忘我は上々」
何かに熱中する。何かに茫然とする。相手のそうしたカギを、元々持っていた霊的な感覚で、骸は手探りで掴み続ける。
「槶君はやっぱり、意外に苦戦したな。チャンスは一番、沢山あったのに――蒼潤君の時にやっと、一緒にだものね」
求めるものは、最もそれが必要な相手こそ苦労する。そんな風に、不死の骸はただ明るく笑う。
「悠夜君のは。まぁ無理って、最初からわかってたけど」
カギを得て、中に入り込めても、動かせないものもやはりあった。
世の中は甘くない。だからこれで、その願いは及第点だろう。自らに言い聞かせるようにそれを呟く。
「これでいつでも――この子達なら介入できるよ、シーちゃん」
その三人の子供と同じ年齢の、ある娘の名――
娘にとって、最も自らの闇を知られたくない相手のカギを、探し求めた忘我の骸。その望みはただ、彼らに何もしないことだった。
「これで一歩、リードって所か。さて、どう出るかな? 白夜ちゃん」
その相手に彼らのカギを渡さずに済んだこと。その功績だけに微笑む。
そうして身近な昏く赤い夢を、しばらくただ、黒い不死人は待ち続ける。
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