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「お主からは『神暦』の匂いがするが、どういうことじゃろうな?」
「……さぁ。それは、オレにもわからない」
これまでの記憶が無い少年は、精霊にしては強い自我を持つことが特徴の、「妖精」であると周囲からはみなされていた。
見た目はいかにも妖精といった、金色の短い髪と尖った耳に、紫の目の少年。改めてここに来た目的の問いを投げかけ始める。
「それじゃあ今、オレが世話になってる御所は、『天界人』がたまたま住んでる所?」
そこに住む者が普通ではないと、少年は初見から感じていた。
「天界人は『地』という天空の島にいたが……三十年以上前に、魔族の大きな攻撃の後、五つの宝珠の『守護者』の内の三人が地上に逃げのびてな。『花の御所』はその内の一つじゃよ」
「……あんたは何で、そんなこと知ってるんだ?」
目前のカードで、占う様子すら見せずに流暢に答えた彼女にも、違和感を持った少年に笑う。
「お主は相当、勘が良いのじゃな」
「……?」
「わしは遠い昔、『地』の無力な住人だったのじゃ。『宝珠』の守り手達が、地上に降り立つよりもずっと前のな」
ただし、と彼女は加える。その頃の記憶は、この現在の身体となる前に他の媒介に封じたという。
「魂魄が初期化される転生とは違った形で……自らの連続性を何とか繋ぐために、わしは『天界人』から『妖』になったのじゃよ」
それはおそらく、彼女と似た境遇である少年にだからこそ打ち明けた、古い秘密だった。
「そんなこと……できるの?」
「できるとも。宝界の力ある化け物、『雑種』――『千族』は、そもそも魔界の者や神など『純血』から造られたのだから」
個体は無力でありながら、「地上人」は力を制す超原理文明を築き上げた。
だからその存在を全て絶やす前に、最後の抵抗を試みたのだ。
「宝界において、魔族や神威は鬼や妖として存在していた。地上人はその化け物と自らを合成し、千種を超える化け物を創った――それが『雑種』。いわゆる『千族』なのさ」
「……それが、オレを拾ってくれた今のオヤジってことか」
「その通り。そして『花の御所』にいる者達は、正確には――」
占い師曰く、化け物と人間の間に生まれた者を混血といい、一代限りのことが多いが、親世代より強い「力」を持つ者もいるという。
「それじゃアイツらは……天界人とかと人間の『混血』なのか」
知人達の正体を知り、かなりの部分、納得した少年だった。
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