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 そして、昏く赤い夢が毎夜、少年を襲う。 「――あれ? ユーオン、寝不足?」 「…………」  少年が「花の御所」を出た後、久しぶりに帰った我が家で。  嬉しそうに寛いで、朝食を口にする妹分。瑠璃色の髪の、袖の無い功夫服といった恰好の妹分の向かいで、サンドイッチを眺めながら難しい顔の少年に妹分が不思議そうにした。 「鶫ちゃんの所のお布団に慣れちゃったら、こっちのベッド、寝にくかった?」 「いや……そうじゃないとは思うけど……」  妹分も少年も、出ていた先は違うが、どちらも昨日にこの家に帰ったばかりだ。数か月前まではそこで寝ていた部屋で、懐かしい夜を過ごしたわりには、少年の顔色は冴えなかった。 「何か、空気が違うっていうか……ここって、こんなに元々、殺伐だったっけ? ラピス……」 「そうなんだぁ。私はやっぱり、我が家が一番って感じでよく眠れたけどな?」  にこにこと青い目を緩め、機嫌の良い妹分に比べて、少年は調子が悪い。しかし「殺伐」を否定しない妹分に苦く笑う。 「ふーん。空気が違うと眠れないって、相変わらずヒヨワな奴」  ひょいっと、食の進まない少年の朝食を、隣に座った親戚――短い下衣の水夫服のような恰好の少女がぱくりと口にする。 「こら、水華ってば! 朝ご飯足りなかったら、向こうの缶詰開けてねって言ったでしょ」 「だってコイツ、すぐに食べそうにないし。それならコイツが缶詰でいいじゃない」 「それでも普通はね、女のコがヒトのご飯、取ったりしないの」  もう、と肩までの瑠璃色の髪を揺らす妹分に、朝食を奪われた金色の髪の少年は軽く笑った。 「ミズカは相変わらず、逞しいな」 「アンタね。それ、褒め言葉のつもり?」  少年のサンドイッチを容赦なく片付けた、茜色の長い髪の少女。毛先をくるくると丸め、二つに分けたポニーテールをまとめる黒いリボンをひらりと揺らし、水華と呼ばれた少女は何の悪びれもない。  少年からは二つ年下であるが、お兄ちゃん然とした目で笑う少年が気に喰わないのか、不服気に水色の虹彩と紅い瞳孔――この多彩なヒトの住む世界でもあまり見ない色の目で睨む。
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