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 そんな妹分と茜色の髪の少女のにぎやかなやり取りを、何処かずっと、少年は上の空で笑って見守っていた。 「……しっかし何か、調子狂うわね」 「ユーオン……何か本当、今日は元気ない?」 「――?」  この春に拾われた少年よりも、ずっと早くから親戚関係だった少女と妹分は、同じようなタイミングで少年に目を向ける。 「生粋のジパング文化『花の御所』にホームステイして、何か心境の変化でもあったわけ?」  家が無人と化した後、少年は拾われてから初めて一人で遠出した。そこで揉め事に巻き込まれた少年を保護し、引き受けてくれたのが「花の御所」で、そこに住む人間ならぬ者達だった。 「……オレ、そんなに何か変わった?」  実際、少年と茜色の髪の少女は、少年が昨春に拾われてから数回、養父母の里帰りの時に会った程度だ。  それでも少年は、少女の我の強さに、何故か感じる懐かしさ――理由なき連帯感があった。不思議なほどに気を許せる、数少ない相手の一人がこの少女だった。 「前はもっと、ヒトを見るなり、剣の相手をしろって煩かったじゃない。全くてんで弱っちいくせにさー」 「それは水華やおば様が強過ぎるだけだと思うけどな。それで魔法も使えるんだから、何ていうか反則だよね、水華達って」  同意。と強く頷く少年に、育ての母から幼少時よりみっちりと剣を仕込まれている少女はそっぽを向く。 「そもそもあたし、剣士じゃないし。別にコイツが強くたって、相手しないけどさ」  ふいっと、両手に着けた腕輪の一つを、少女は指の間で弄ぶように回す。 「……」  その少女が剣を持たされず、魔法杖に変わる魔法具である一対の腕輪を、武器として使うように方針を変えられた理由。  少年には、五感の及ぶ範囲の現状把握に優れる、「直観」という勘の良さがある。だから少女の育ての親が、才能の有り過ぎる少女へ歯止めをしたこと。その対応が救命処置だとうっすらわかっていた。
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