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 茜色の髪の少女が実家にいた頃。初対面の少年の視線に気が付いた時は、少女は空のような青い髪と目を持つ、厳しげな顔付きの女性に剣の指南を受けているところだった。 「――何アイツ。初めて見る顔だけど」 「こら水華。真剣使ってる時に、気を散らすな」  少年からは義理の祖母になる女性。しかし見た目は養母と同じで非常に若い相手に、剣を教わっていた少女は、最早達人の域の剣の腕を持つ。少年にはそう観えていた。 「もうこっちはいーでしょ、魔法使わせてよ。どうせあたし、剣じゃなくてクレスントを使えって言うんだからさぁ」  手の甲と手首を覆うタイプの手袋の、中心に留まる両の腕輪を指に引っ掛け、茜色の髪の少女は不服そうにする。 「バカ。もっと強くなれば、剣を使っていいと言ってるでしょ」  少女も、少女に剣を教えている女性も、剣士の特性か基本的に柔和さがない。どちらも鋭く整った顔立ちで、表情の端に漂う不敵さも似ており、赤系と青系という全体像の違いがなければ実の母娘と少年も認識しかけたほどだった。  最もこの頃、少女は自らが養子であることを知らなかったが。  青い髪と目の女性は、まっすぐな長い髪をサラリとかきあげて言った。 「誰相手でも殺さず勝てる程強くなれば。いつでも好きなだけ剣を使いなさい」  当たり前とばかりそれを言う女性は、確かに剣自体の類稀な腕と、剣に纏わせることができる大きな力と……それらを生かせる鋭い感覚の持ち主であることが少年にはわかった。 「……どっちもバケモノ過ぎるだろ」  目前の相手の戦闘力を観ることが、何故か少年には染みついている。ただ茫然と、二人の剣士を観続けていた。  剣を使う条件を決して変えようとしない青い女性に、少女はむすっとした顔を見せる。 「またそんな無茶言う。何か矛盾してない? それ」 「何であってもうちの家訓。うちのコでいる内は守りなさい」  その青い女性曰く。うちのファミリーの一員になりたいなら、弱い者イジメをしない、勝手に死なない、無駄な力を使わない――新参者の少年にもその三つの戒めが告げられていた。  それは難しい、と心から少年は、悩ましく思ったものだった。 「結局……殺すな、でも殺されるなってことだろ?」  ヒトを殺すための剣を持っていいのは、相手を殺さず勝てる時。それは矛盾だと言う敏い少女に、少年も全く同感なのだった。
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