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 内装は西洋風、外装はジパング風の民家。そこに若い住人が帰り、まだそう日は経たない内の、ジパング式の瓦の屋根の上で。  その想定内の異変は、思ったよりも早い到来を見せた。 「こりゃ……聞きしに勝る、魔境っぷりだねェ」  雲一つない澄んだ夜空の、青白い月の下に。青年とも言い切れない、幼く儚げな声色がぽつりと発されていた。 「こんな禍々(まがまが)しい家、そうそうないよ。よく平気だね、『剣の精霊』」 「……」  屋根の上から家の内を窺うように、座り込んでいた幼い声の主。  いち早く闖入者を感知して屋根まで上がってきた少年が、その家に住む者であると確認してから、すらりと楽しげに立ち上がった。 「……せっかく、丈夫な結界が張ってある家なのに」  青銀の短い髪と、黒く光る鋭い蒼の目を、闖入者は月明かりに晒す。 「わざわざ自分から、オレの前まで来るなんてね」  ともすれば女性にも見える美形の相手。対して無機質さが目立つ銀色の髪の少年を、憐れむように妖しく笑いかける。  この家には、義理の祖父が施したという結界がある。現在の住人、金色の髪の少年や妹分、その養父母が、自宅にいる時くらいは安心して過ごせるようにと。  その結界を出て一人屋根に姿を現した少年は、金色の髪が銀色に、紫の目が青へと変わり、普段の穏やかな表情は面影もなかった。  目前の敵、軽装ながら首輪など装具の多い上着を羽織る青年に、銀色の髪の少年は無表情に対峙する。 「オレに攫われに来たの? 『剣の精霊』……『銀色』君」  その、時により髪が銀色に変わる少年が花の御所にいた頃に。御所に少年を引き受けた公家の仲間だった青年は、少年をある敵の元へ連れて行くと宣言していた。その来訪は少年が御所を出た後だろうと、公家からは悩ましげに伝えられた。 「金髪の時と違って、オマエはほとんど喋らないんだね」 「…………」  首を覆う黒衣を基本着とするなど、青年と少年は雰囲気が何処か似通ってもいる。一方は笑顔、一方は無表情と、屋根の上で視線をぶつけ合う。
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