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 昨年の秋に、東の大陸で青年はその少女達と知り合ったらしい。  そこで巻き込まれた事変で大きな怪我を負い、その時に現在青年を縛る者に絡め取られたことまでは少年は知らなかった。  その背後の勢力は、この平和な世界にそぐわない流血を好み、国一つ焼くような暴挙も厭わない「魔」。それをある旧い夢から少年は知っていた。 「水華もオレも、あいつらにとって『資格者』らしいんだよね。オレには何が何やらさっぱりだけど」  その少女と、青年を絡め取った敵側の誰かには、強い因縁が存在している。毎夜の赤い夢からも、銀色の髪の少年は気が付いていた。 「まぁでも、仕方ないっちゃ仕方ないや」 「……」 「オレと水華と、後一人がいれば――少なくともあいつらは、他の奴には手を出さないで済むって言うし。それなら犠牲は、最小限に抑えるしかないだろ?」  そして既に、後の一人を害し、青年の標的は茜色の髪の少女のみとなっていた。そこに不意に加わったこの少年という標的にも、容赦するつもりはないようだった。  それが何より、それ以外の者を、再び起こった戦いに巻き込まずに済む道であると。  青年のその意思に、少年は一瞬、声を呑み込む。しかし、 「――って言うのが、オレの主人格の意図に近いわけだけど」 「……!?」  今までの話が戯言とばかりに、にこりと青年は魔性の微笑みをそこで浮かべた。 「ホントはね。犠牲になるのは一人で充分なんだよ」 「――」 「それならオレは、自分のことは守ってやりたいわけで。だから悪いけど……水華のことも、連れていかせてもらうよ」 「……!」  その魔の者は、決して偽りを述べてはいない。そこまで聴いてようやく、青年の目的の一端が少年にも観えた。  青年がそこに、縛り付けられた因まではわからなくても、 「水華にまで手を出すなら――……アンタは俺の敵だ」  最早目前の相手は、確実に敵であると。それがわかっただけで、この少年が常に袴に下げる剣を抜くには充分な理由だった。  戦わなければいけない。何があっても、どれだけ己を削ることになっても――……その時が再来し、殺さずに過ごせる時間は終わったのだと。
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