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――お主がそのような顔を、することはないのじゃよ?  少年の脳裏には、青年の旧い仲間である公家の声が響く。少年が花の御所にいた頃に、平穏な御所の一角を血で染めた少年に、温かい眼差しを向け続けてくれた守護者である公家。 「アンタがたとえ……頼也達には、大事な仲間でも」  それは銀色の髪の少年だけではなく、金色の髪の時にすら、少年が公家達に向けた直向きな思いだった。 ――ソイツがもしも敵になったら――……オレが戦うよ。  そっか、と守護者たる青年は、剣を取る少年の姿を見て笑う。 「オマエは……オレを殺したい?」 ――ユーオン殿。ヒトを殺すのは、いけないことじゃよ。  あまりにも当たり前のことであり過ぎて。今まで誰もその戒めを、銀色の髪の少年に与えなかった。 ――俺は……きっとこれからも、ヒトを殺す。  それを(のぞ)めない己を知る少年は、旧い答を青年に返す。 「アンタが殺すべき相手なら――何をしてでもアンタを殺す」  何の感傷も浮かべず、青年を無機質に見る少年がヒト殺しの才能を持ち、多くの命を奪った過去を持つこと。それを誰一人、少年自身すら覚えていなかったとしても、その定めは変わらないと示すようにただ断言する。  少年が生きるこの時代は、最早、天性の死神を必要としていない。それも少年は感じていたというのに。 「それで俺が消えるなら……それが多分、ちょうどいいんだろ」  透明な鈴玉(れいぎょく)と蝶型のペンダントを、黒い柄に設えた青銀の剣。それを片手に、自らの制限を解放することを少年は決めていた。  銀色の髪の少年の決意に、悪魔側の青年は気が付いたらしい。不自由だらけである生き物に、再び憐れむような微笑みを向ける。 「いいのかな? せっかく普段は省エネモードの金髪君で……少ない命をオマエは必死に、やりくりしてるんじゃない?」 「……」 「オレはよく知らないけど、頼也兄ちゃんは心配してたよ?」  少年は、自らの切り札である「力」を剣に纏わせる。その剣を少年が振るう時は大きく体力を消耗し、その後で長い眠りに落ちる。それが意味する窮状を偶然聞いた青年は、冷静に尋ねていた。 「下手に動けば……オマエはあっさり死ぬんじゃないのかな」  全く同じ注意を、少年はかつて、顔見知りの占い師にも言われていた。  いつか花の御所の何処かで。優しい時間を近くで過ごした、赤い髪の娘にだけ伝えた心を、少年は思い返す。 ――あんた達の前では……俺は殺したくない。
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