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 あれま、と。間の抜けた声色で、青銀の髪の青年は、現れた顔見知りの少女を意外そうな目で見つめる。 「内界を隠して、外界のことも遮断される結界の中にいるのに。よくオレ達に気が付けたなぁ、水華ってば」 「気配がどうとかって問題じゃないし。ソイツが長いこと帰って来ないから、何かあったと思って当たり前じゃない」  気配などの探知によらない、現状把握に優れる少年とは違い、茜色の髪の少女は敏感ではあるが、化け物としては一般的な気配探知能力を持つ。そうして一般的でない彼らに呆れたような溜息をついた。 「……」  銀色の髪の少年は黙って、無表情に少女を見つめる。  少女はその冷たい視線をものともせずに、少年に背を向け、青銀の髪の青年を睨みつける。 「……ザイから聞いてるわよ。アンタ、魔王とかいう奴の方に寝返ったんだって?」  青年は少女と少し前から顔見知りだという。魔の者として裏切り、旧い仲間である南の島の男にも刃を向けた青年。更には男の旧知の女性を害していたことを、男が住む城に滞在していた少女は、いくらか耳にしていた。 「クラルさんもクアンも、信じられないって言ってたけど……アンタには実のお姉さんも同然な相手を、魔王の手の奴らに差出したんだってね」  まだ十三歳に過ぎない少女が、何処か大人びた顔で尋ねる。  少女と束の間、南の地で共に時を過ごした者達。青年にも旧い仲間である、南に住む守護者とその子を引き合いに出し、心から呆れるように口にしていた。 「実のお姉さん? そりゃ無茶なこと言うね、クラル兄ちゃんも」  対する青年は軽く笑い、楽しげに少女を見返す。 「ま、水華相手には、そう言って説明するしかなかったのかな。ザイ兄ちゃんもクラル兄ちゃんも、レイ姉ちゃんとオレが実際どーいう関係か、知ってるわけもないしね」  天の民たる守護者と敵対する、魔の海の「魔王」という存在。守護者は魔王が不定期に現れる度に、血で血を洗う戦いを続けている。  今代の魔王についても、本来は十五年前に、目前の青年を含む四人の守護者が打ち倒したはずだった。様々な大切なものを失いながら、各々の宝珠と、その「鍵」の力で。
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