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空っぽの胸から湧き上がるのは、血を吐くような結論だけだった。
「それでも……オレは……」
これはおそらく、彼なりの走馬灯だろう。死に体な彼の本心が望んだ、有り得ない幻でしかない。
きっと誰かに試されていた。それは彼に、水華を助けさせないため。それなら「彼に都合のいい世界」が撒き餌であるはずだ。
そんなことに気付かず受け入れてしまえば、汐ノ香と家族、彼の望みが全て手に入るだろうに。
――もしも君が、あの子を助けたければ。
それでも彼には、助けなければいけない者がいる。直感でしかないが、水華だけでなく、彼に起きろと叫んだ水燬のイメージも救いを求める眼差しを向けた。
何が正解かは全くわからない。確かなことは、温かな幻より冷たい現実を生きた体に宿る、拭えない孤独だけだった。
「オレは……自分に嘘は、つけないんだ」
彼のまっすぐな蒼い目線に、姉である彼女は、今までの平和な表情を消していった。
「……そう」
そこには何の感情もなかった。強いて言えば、哀れみだけが浮かんでいた。
「まさかアナタが――汐ノ香を裏切るなんて、ね」
無機質な声と共に、視界を灰色の砂嵐が襲う。そうして束の間の幻を無残に消していく。
目を開けると、何処かの教会の祭壇で、誰かの服を抱えた彼女が座り込んでいた。
「……まさかアナタが、守護者達を裏切るなんてね」
つい先刻と打って変わり、寿命が間近で、ボロボロの体の彼女がいる。
彼は悪びれることなく、冷たい微笑みを返すしかなかった。
「うん、まあ。オレ達、似た者同士でしょ? レイ姉ちゃん」
どうやら一瞬、この状況となるに至った経緯を夢に見たらしい。やっと惨い現実に戻ってきた彼は、改めて現状を把握し直す。
この教会は南の島にある新しい教会だ。先日ザイに向かわせた教会と同じ系列でもある。
あの時大きく負傷した彼は、魔王一派の残党に契約を持ちかけられた。そして狙われた水華を解放する代わりに、彼が魔王一派の手足となることを受け入れたのだ。
大切な者達を守るために魔王に利用され、かつて敵対した目前の彼女と同じように。
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