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「って――何、あんた……!?」  完全に一瞬で動揺した少女の前で、無言で佇む吸血姫――  一見十五歳ほどの、銀色の長いまっすぐな髪と鋭い切れ長の赤い目の美少女。その横で青年は、驚く少女にくくく、と笑う。 「何でそいつ――あたしにそっくりなのよ!?」 「……――……!」  少女の隣では、少年も愕然とした顔で息と声を呑んだ。  耳が尖り、髪や目の色は違うものの、その吸血姫は少女が言う通り、少女とほぼ同じ顔立ちをしていた。肩を大きく出す短いケープの下から、二枚のコウモリのような羽を大きく広げている。  袖が無く体にぴったりした、上下の繋がる末広がりの服で、無表情に青年の傍らに佇んでいた。  何故か少年は、その銀色の髪と赤い目の――世にも稀な美しい吸血姫の姿に、絶望に似た声色で呻きをもらしていた。 「……ウソ、だ――……」  自身が何故、それを思ったかも、すぐにはわからなかった。 「――……何で……、――……?」  消えゆくような声色と目。剣まで取り落としかけながら呟いていた。  そうした少年の変化までは、その青年は気付くこともなかった。 「一応、名前紹介しとく? 元レイ姉ちゃん」 「……」  黙りこくる傍らの吸血姫に、青年は楽しげに目配せして笑う。 「レイってまさか――アンタ、その女って……!」  大きく動揺しながらも、鋭い少女は青年のその声を聞き逃さなかった。傍らの少年の動揺に気付かず食ってかかる。 「ザイが言ってた北の四天王……!? でも――……!」  その捕われた四天王は、外見は大人の女性だと少女は話を聞いていた。しかしどう見ても少女と大きく変わらない年恰好の相手。驚く様子に青年が笑う。 「吸血鬼は化けられるんだよ。オレが今この姿であるようにね」  ぽんぽんと、傍らの吸血姫の頭を撫で叩いている。現状が本来の姿である相手に、皮肉気にも見える顔で笑いかけていた。 「さすがに、自由に喋れるくらい動かせるほど、相性は合ってないみたいだけど。せっかくこんなに上等な(からだ)、命が無いだけなら、放っとくのは勿体無いでしょ?」 「……は?」  そして青年は、間違うことなき悪魔の微笑みをそこで浮かべた。
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