4人が本棚に入れています
本棚に追加
「ちょっと前からね……ザイ兄ちゃんに一目惚れしちゃった、それはそれは純情で、可愛い吸血姫がいたんだけどね」
その冷たい微笑みには、これまでの甘さは欠片も見られなかった。何処か憎悪すらたたえる歪んだ目で、青年は無表情の吸血姫を横目に見ていた。
「ちょうどレイ姉ちゃんが死ぬ直前、そいつもいきなり人間に理不尽に殺されてさ? 不憫だったから、レイ姉ちゃんの躰をあげることにしたのさ。ザイ兄ちゃんの大切なヒトだって、羨ましがってた相手だったし」
「……ザイの――大切なヒト?」
少女はぴくりと、そこで眉をひそめる。
「ね、ミカラン。同じ使うなら、ザイ兄ちゃんに近付きやすい、レイ姉ちゃんの躰で良かったよね?」
「……」
虚ろながらも、まっすぐな赤い目で吸血姫は青年を見つめる。まるで自身の体を抱くように両腕を絡ませ、心許なげに青年の傍らで立ち続けていたのだった。
そんな、自身と同じ顔をした吸血姫の様子に、少女は心から不快といった風に顔を歪ませていた。
「外道ね。相性も縁もない体に、他人の魂をくっつけるなんて」
「おー。さすが魔法使い、それくらいの知識はあるわけだ」
「同じ吸血鬼だから、何とか符号してるんだろーけど。そいつ、吸血鬼より全然弱い魔物になってるじゃないの? その程度でアンタの加勢になるわけないでしょーが」
喋ることも表情を変えることもできない吸血姫。たとえその躯体が北の四天王でも、四天王たる力を生かせない弱小な魔物だ。
少女はあっさりと、その脅威を否定する。手に掲げた魔法杖に力を込めて、今まさに戦闘開始の狼煙を上げんとしたのだが……。
「――ダメだ、ミズカ」
そこで、少女も青年も思っても見ない邪魔立てが、よりによって隣の少年から入る事態となっていた。
最初のコメントを投稿しよう!