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「ちょっと前からね……ザイ兄ちゃんに一目惚れしちゃった、それはそれは純情で、可愛い吸血姫がいたんだけどね」  その冷たい微笑みには、これまでの甘さは欠片も見られなかった。何処か憎悪すらたたえる歪んだ目で、青年は無表情の吸血姫を横目に見ていた。 「ちょうどレイ姉ちゃんが死ぬ直前、そいつもいきなり人間に理不尽に殺されてさ? 不憫だったから、レイ姉ちゃんの躰をあげることにしたのさ。ザイ兄ちゃんの大切なヒトだって、羨ましがってた相手だったし」 「……ザイの――大切なヒト?」  少女はぴくりと、そこで眉をひそめる。 「ね、ミカラン。同じ使うなら、ザイ兄ちゃんに近付きやすい、レイ姉ちゃんの躰で良かったよね?」 「……」  虚ろながらも、まっすぐな赤い目で吸血姫は青年を見つめる。まるで自身の体を抱くように両腕を絡ませ、心許なげに青年の傍らで立ち続けていたのだった。  そんな、自身と同じ顔をした吸血姫の様子に、少女は心から不快といった風に顔を歪ませていた。 「外道ね。相性も縁もない体に、他人の魂をくっつけるなんて」 「おー。さすが魔法使い、それくらいの知識はあるわけだ」 「同じ吸血鬼だから、何とか符号してるんだろーけど。そいつ、吸血鬼より全然弱い魔物になってるじゃないの? その程度でアンタの加勢になるわけないでしょーが」  喋ることも表情を変えることもできない吸血姫。たとえその躯体が北の四天王でも、四天王たる力を生かせない弱小な魔物だ。  少女はあっさりと、その脅威を否定する。手に掲げた魔法杖に力を込めて、今まさに戦闘開始の狼煙を上げんとしたのだが……。 「――ダメだ、ミズカ」  そこで、少女も青年も思っても見ない邪魔立てが、よりによって隣の少年から入る事態となっていた。
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