14/16
前へ
/425ページ
次へ
「――へ? ……ってアンタ?」  いつの間にか金色の髪に戻っていた少年が、視線は吸血姫に固定したまま、少女を遮るように片腕をあげていた。 「何で金色に戻ってんのよ!? 状況わかってんの!?」  目の前の吸血姫より更に弱小な、青年曰く省エネモードである金色の髪の少年。容赦なく少女は罵声を浴びせる。 「オレもわからないけど――……とにかくダメだ。ミズカはあの女とは戦わない方がいい」  自らよりも鋭い現状把握の直観を持つ「銀色」が、何に気付き、何を考えたのか。それは覚えていられない金色の髪の少年は、ただ戸惑うようにそれだけ口にする。 「言われなくても、あたしはあのバカ、相手するしかないし!」  ブンと、魔法杖の先端を守護者たる吸血鬼に向け、少女は顔に緊迫感を漂わせる。 「アンタは責任持って、あの女の相手すんのよ!」 「――」  己が対峙すべきは青年とすぐに切り替えた、俊敏な少女の横で。何故か少年は未だに、戸惑いに捕われていた。 「……オレが――あの女を……?」  最初に青年が現れた時にも、外套にくるまり、吸血姫はすぐ近くにいた。その時には何も感じなかったはずが―― 「あいつをオレが……殺す、べきなのか――……」  銀色の髪で赤い目の、少女とほぼ同じ素顔を目にしただけで。何故こんなに強い吐き気がするのかわからず、少年は戸惑い続ける。  にわかにそうして変わっていた状況に、青年は不思議そうな冷たい目付きで、両腕を組んで佇んでいた。 「変だな。水華が動揺してくれるとは思ったけど――」  少女とその吸血姫の顔が酷似する理由を青年は知っている。しかし明らかに少女以上に動揺した少年に、怪訝な目を向ける。 「有り得ないほど、隙だらけになっちゃったな。アイツだけなら今日でも十分連れていけるけど……」  元々この戦力不足の訪問は、様子見程度のようだった。青年はどうしたものかと思案を巡らせている。 「こっちにもしも思い入れされると――ちょこっと困るな」  青年の出方を窺いつつ、魔法を使う集中力は維持して動かない少女を前に、ふうと軽く溜息をついた、その時だった。
/425ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加