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巨大版の青い女性が、どうやら帰ってくることはなさそうだった。常に恐れる相手の出現に焦っていた少女は、安堵したように大きく息をついていた。
「ったく……心臓に悪いってーのよ」
「水華ー、ユーオン~。大丈夫ー?」
地上から少年と少女がいる屋根の方へ、緊張感の欠片もない声がかかる。二つの魔法杖を携帯型の腕輪の形に戻した少女は、まだ茫然とした少年の首根っこを掴み、共に庭に降り立っていった。
庭に面した縁側では、瑠璃色の髪の妹分が首を傾げていた。
「二人共ずっと屋根の上で、どうしたの? 何でアラス君が、うちに来てたの?」
「バカ。ザイが言ってたでしょ、アイツは今は敵だって」
「そうだけど……水華やユーオンにどうして、アラス君が何の関係があるの?」
昨年の秋に、青年と知り合ったらしい妹分は心底不可解げにしている。自身の身内に関わる青年――実際ほとんどその正体を知らない相手を思い浮かべ、目を丸くするのだった。
「……ラピスは知らなくていいよ。でも、助けてくれてサンキュ」
少年はそんな妹分に、困ったように笑いながら礼を言う。
しかし少年の曖昧な態度は、少女には気に食わなかったらしい。
「アンタねぇ。戦う気あるのか無いのか、ハッキリしなさいよ」
「……」
「あのバカの目的はわかんないけど、あたし達がここにいれば、どの道ラピも巻き込まれるわよ。なら話しといた方がいいでしょ」
「……――」
少女の言い分は、全くもって正しい。しかし金色の髪の少年は、それでも困った気分の顔付きのままで俯く。
「――うん。よくわからないけど、作戦会議しよ♪」
対照的にニコニコと、妹分はがしっと少年と少女の腕を掴んだ。
「心配しなくても、私はポピがいれば大丈夫だよ、ユーオン」
妹分の足下では、妹分に常に連れ添う、猫の頭だけのような奇妙な生き物も少年を見上げる。顔から直接生える小さな黒い手足と、長い尻尾を器用に使い、少年の肩までよじ登って来た。
その奇妙な生き物こそ、弱小な妹分を守る奇跡の本体でもある。
「……」
それでも少年は、少年と少女が出会った敵のことを、妹分には話さない方がいいと思った。
内心を占める、理由のわからない思い。何も言えないままで、妹分に引っ張られて、家の内へと戻るしかなかったのだった。
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