5/18
前へ
/425ページ
次へ
 ひょっとして、と、妹分は、更に少女のことも巻き込みに入る。 「水華のそっくりさんも、水華のおかーさんとかおねーちゃんだったりして?」 「有り得ないし。吸血鬼に知り合いなんていないし、あたし」 「わかんないよ? だってそのヒト、ザイさんと同じ、元々は四天王さんだって言うじゃない。ザイさんみたいに人間の血も流れてるのかも?」 「尚更論外だし。あたしは聖と魔の混血だって、おフクロ達は言ってた気がするし」  人間の血はほとんど流れていないと、茜色の髪の少女は否定する。二つの魔法杖を渡された理由は、聖魔二つの「力」のためだと、少女はそう伝えられていた。 「生粋の天のヒトのクラルさんからも、あたしの羽は自分とほぼ同じだって言われたしね」 「あー。たまに出る水華の変な、光でできたみたいなアレ?」 「変とかアレとか言うなっつーの。ま、どう考えても吸血鬼の羽は無いから、吸血鬼の身内なんてお呼びじゃないのよ」  本来は自身の真の両親――ルーツを探し、少女は旅に出たはずだった。しかし南の地で宝珠や守護者という存在を知ってからは、興味はほとんどそちらに移っていた。 「万能の宝珠なんて、聖魔併せ持った万能のあたしにまさにぴったりじゃない」  その背に刻まれた光が持った、聖なる力を扱う白い杖と、躯体本来の魔の力を受ける、黒い杖が必要である少女。 「……オレは……気は進まないけど」  分けられなければいけなかった事情。併存できる理由。  この道の先でそれを少女が突き付けられると、少年はまだ知らない。  その(いびつ)な少女のことを、妖しい占い師の元に連れていくのを躊躇ったのは、少年だけではなかった。 「大丈夫かな。水華、この間までちょっとおかしかったから」 「――へ?」  家を出る直前に瑠璃色の髪の妹分は、ふと思い出したように、茜色の髪の少女の後ろ姿を見て呟いていた。 「私と水華、ここに帰る前に南にいた時――一カ月だけ学校に通わせてもらったんだけど」  南にいる守護者の三人の子供。それらが通う学び舎へ、体験入学として少女達は混ぜてもらったらしい。 「そこでの水華の通り名、何だと思う? 竜牙(たつき)水華――それは淑やかな微笑みの美少女……『(くれない)の天使』だよ?」 「それは確かにおかしいな、有り得ないな」  でしょ? と少年を見る妹分は、いつもの軽さに蔭りがあった。実際にその通り名がしっくり来てしまう変貌を、しばらくの間遂げた少女の姿を見ていたのだ。
/425ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加