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道中は至って平和で、そうしたお喋りに一通り花が咲いた。
京都の町の場末にある、木の骨格を布で覆うテント仕立ての占い小屋へ彼らが着いた時には、ちょうど正午だった。
「さっさと話聞いて、何かジパング名物でも食べて帰ろー」
ふんふん♪ と少女が鼻歌混じりに小屋に近付く。
「脅迫とかしちゃダメだよー、水華。すぐに全部教えてくれるなんて限らないんだからね~」
少女の行動パターンを知っている妹分も、さらりと不穏なことを口にしながらそれに続く。
「……」
ここまで来ても少年は、往生際が悪く、気が進まなかった。しかしその理由もわからず、流れを見守るように立ち止まっていた。
たのもー! と、思い切りの良い少女が、両手で占い小屋の入り口の布を掴んで勢い良く開けた次の瞬間。
「……――へ?」
礼儀や常識を全く重視しない気ままな少女が、一瞬で茫然とした程に。その先には奇妙な光景が待ち受けていた。
「……お待ちしておりました――……我が君」
小屋の中では、全身ケープの老婆が何故か入り口の前で跪いていた。
「……は?」
「――あれ? 梅……おばあちゃん?」
呆気にとられる茜色の髪の少女の背後で、妹分もポカンとしながら、地にひれ伏す小屋の主の名を呼びかける。
跪く老婆は、あくまで俯いたまま畏まっていた。
「長い時でした……この身を妖に堕としてまで、ただただ貴女様のお帰りを待ち続けておりました」
「……ちょっと。あんた、誰よ?」
ようやく少女が、それだけ尋ねる。日頃の頭の回転の速さも空しく、占い小屋に来た目的も忘れかけている。
老婆はすっと立ち上がると、ケープから頭を出し、肩までの白髪とくすんだ細い赤い目を露わにした。
「フラウア・プフラオメ……私が『地』にて、貴女様のお傍にあった頃の名です」
「――へ?」
「その名と記憶は失われぬよう、今は異所に封じているのですが。私には、貴女様に伝えなければいけないことがあるはずなのです」
物憂げな厳しい顔付きで少女を見つめる老婆には、これまで少年や妹分が知った、気のいい意地悪婆さんといった占い師の面影は少なかった。忠実な侍従という雰囲気がまさにぴったりの、凛とした背筋の正しさだった。
そして老婆は、茫然としかできない少女達へと、彼女が願い待ち続けた旧い物語をそこで話し出す――
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