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 青白い光を放つ剣は、多くの命を吸った呪われた剣。様々な夢を見る度に、その現実は突き付けられていた。 「…………」  激しい吐き気に目が覚めて、銀色の髪の少年は夜風に当たりに外に出る。 「……せっかく……忘れてる、のに……」  今の躰で目覚めるまで、少年の過去と言える剣は長過ぎた時を眠りの中で過ごした。あまりに長い時間を越えて、その記憶は失われていった。  しかし少しでも縁故のあるものに出会う度、はっきり中身は戻らなくても、旧い事実が少年の青い目に必ず映っていく。 「もう、誰も……覚えてないのに……」  冷たさばかりを与える古い剣。唯一、柄に填まる透明の玉だけがいつも温かく、思い出せない優しい夢を時に観せてくれる。銀色の髪の少年もそれだけは、決して失くしてはいけないものだとわかっていた。 「殺した奴も殺された奴も――……もう、何処にもいない」  剣を魂とする少年が、あまりに長く眠っている間――  生まれ変わりがあるのならば。少年が失った人々も傷付けた人々も、おそらく何度も魂を書き換え、巡らせてきたのだろう。 「何処に行っても、誰も……俺のことは知らない」  それは確かに、少年に与えられた救いで――そして罰だった。  でも――と。  自らが常に曖昧な少年に、今は確かな形があった。 「俺はラピスの…………助けになりたい」  その意志を与えてくれた妹分と、妹分が大切に思う者達。  妹分の心を守るために必要なヒト達を、ただ守りたかった。 「それなら……――……殺さないと」  海の底のように暗い夜空と、白いだけの月を見上げる。少年は暗く青い目を澱ませていく。  そんな少年の傍で、剣の柄の透明な鈴玉は僅かに赤みを帯びる。 ――殺したくないって。どうしてそう思っちゃダメなの?  その思いをこそ少年は殺すと、その玉はずっと知っていた。  それを少年に告げてくれた誰かを映すような赤。それが剣から零れゆく青白い光をささやかに抑え続ける。  それでも少年には、昏く赤い夢が今も届き続けているために。 「あいつを殺さないと――……ラピスが、いなくなる」  その理由を思い出せないままで、既に観極めていた相手も、少年は把握している。 「ラピスが望むなら、それが――……俺の、役目だ」  自身にできることはそれくらいだと。誰も知らない誰かの闇がわかることが、剣となった少年の永い呪いだった。 +++++
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