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「……」
前方を茜色の髪の少女と妹分が、後方を少年と占い師が歩いている状態で、少年はちらりと横目で占い師を見る。
「なぁ、梅……」
「――ん?」
「ミズカの前世を知ってるって……本気なのか?」
不審な顔付きで切り出すと、占い師は少年が馴染みのある、いつもの意地悪婆の雰囲気で笑う。
「知ってるということは知ってるがのう。確かにお主の言う通り、それ以上のことは知らぬよ、今のわしでは」
「……それは本当に、ミズカの前世なのか?」
「――ふむ。お主は何やら、違う何かが観えているのかのう?」
「……わからないけど……何か、気になって」
現状把握に優れる勘の良さを持つ少年。それには何故か、占い師の言は嘘ではないが、真実とも何処かずれている気が昨日からしていた。
「そうじゃな。それもわしが、記憶を解放すれば明らかになるかもしれん」
「ミズカはこの先……梅が仕えてた奴のことを思い出すのか?」
その問いを口にした少年の内心はとても浮かなかった。占い師はおや、と目を丸くして少年を見返す。
「それはないじゃろう。前世とはあくまで現世の陰に過ぎない――前世が現世を侵食するのは、あってはならないことじゃよ」
それはまるで、死者がこの世に干渉する禁忌と同じであると、占い師は厳しい顔付きで口にする。
「それなら何で……梅はミズカに関わるんだ?」
少年も同じくらい厳しい目つきで、占い師を見つめる。
「ミズカが何者でも、ミズカから梅は何の関係も無いはずだろ」
「ああ。しかしわしにも、自らの存在意義を果たす権利はある」
「…………」
「お主はストイック過ぎるのじゃよ。せっかくすぐに身近に、実の父がいたことを――お主の目なら初見でわかっただろうに」
あくまで現在の養父を、少年は養父としてしか認めていない。占い師は痛ましげな目を向けながら、ワープゲートを出た後の目的地に続く林道を、老婆とは思えない速さで足を進める。
「……オレも向こうも覚えてない。それなら意味はないだろ」
「どうだかのう? 記憶それ自体は無かったとしても、お主もレイアス殿も、尋常ならぬ眼の持ち主であるし――
そこで不意に。占い師の声の続きを聴けることはなく、少年の周囲が唐突にブラックアウトしていた。
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