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「――!?」  これまで歩いていたはずの、厳かさも残す林道とは全く違った、薄暗いだけで何も無いモノトーンのその場所。それは青銀の吸血鬼と同じ空気と、それだけは瞬時に少年はわかった。 「何だここ――……ミズカ!? ラピス!?」  立ち止まって必死に辺りを見回す少年の前、均一な色の空間が一部がぐにゃりと歪んだような錯覚が少年を襲った。 「……――!!」  その歪みの後に、場に敵が現れていた。  これまで少年が、直接会ったことは無い白銀の人影。なのに何故か強い既視感が少年を襲う。そんなこととは露知らず、その敵は穏やかに笑いかけてきた。 「――どうも。お初にお目にかかります」 「……アンタ……?」  何一つ余分なものが無い、僅かに青じみた鉛色の世界。その世界では目立つ白銀の短い髪の男、薄青い切れ長の目を細眼鏡で覆う、神父のような恰好の敵が少年の前に立っていた。 「先日は陽炎が、花の御所でお世話になりました」 「アンタ――……あの女の……!?」  あくまで穏やかに笑う神父は、少年が御所の者への偵察者として警戒した乙女の名を口にした。つまり青銀の吸血鬼と同様に、少年に敵対する者であることをあっさりと認めている。 「俺はジェレス・クエル。悪魔としての名はルシフージュといいます」 「――」 「俺の契約者が君の保護を望んでいるので、アラス君の代わりに迎えに参上しました。というわけですが、君には勿論、拒否権があります」  そう言って少年をまっすぐ見据える神父。しかし少年には、見逃すことができない違和感をその全身に纏っていた。 「アンタ……あの女の、主か……?」 「――いいえ? 俺の契約者はもっと幼い、純粋な子供ですよ」  心から意外そうにする神父だが、それでも消えない微笑みの裏は全く空虚で、生き物としての奥行きが無い。それを少年の直観は感じ取っていた。 「陽炎に言わせれば、俺は身も心も、クエルを名乗ることすらもおこがましい借り物ですから。彼女の探す主は、俺とは別人ですよ」  それでも確かに、偵察者の乙女が口にした相手。乙女が生涯をかけて仕えたがった「主」はこの神父の男を指した話だ。  目前の「悪魔」は自ら以外の、生きた者の体に憑いている。相手を感じ、現状把握に優れる少年にはそれがわかる。死んだ妖精の体を奪った少年以上に、呪われた神父を悟っていた。  実の従兄、妹を手にかけたと言われている魔の者。おそらくは何重もの意味で、危険な相手であるその存在を。
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