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 押し寄せてくる意外な直観の判断に、茫然としたままの少年に、神父は手にした輪の一端を向けて再び笑いかけた。 「人形使いが君を気にする理由が、何となくわかりました」 「……――」 「せっかくですから、俺が水華さんの相手をして、ソールに君を会わせたかったのですが……それでは負けるらしいので」 「……!」  ぎしりと突然、まるで神父の持つ輪が少年を取り巻いて締め付けたかのように、見えない拘束の力が少年を襲った。 「水華さんは本当にお強いですからね。アラス君を含めうちの者では、正攻法では相当苦戦するでしょうから」 「……まさか、アンタ――……!」  どんどん締め付けてくる見えない輪に捕われながらも、少年の脳裏には全く別の危機感が突然に生まれる。 「ミズカまでまさか、そいつの人形にする気か……!?」  悪魔である血。魔として堕ち得る力を持った者を、傀儡とできる人形使いがいること。その対象は聖魔併せ持つ少女も決して例外ではない。 「できるかどうかはともかくとして……その呼びかけによって、水華さんに隙を作ることは可能でしょうね?」  今この場で、まさに少年が危機に瀕しているように。おそらく少しだけ違う位相の同じような空間で、その少女も危地にあるはずだった。  最早躊躇うことはなかった。その身を削る力を、少年は一挙に解放した。 「――!」  目前で呼吸を止めた少年の周囲から、突然放たれた白い光。神父は瞬時にその微笑みを消し去っていた。 「っ――!」  精霊も使えない弱小な身で、少年の唯一の特技――命という力の根源を直接ぶつけた。どんな力にも通じる、命を直接削ぐ光。見えない輪から解放されたはいいが、反動としてすぐにも口内に湧き上がった血を少年は必死に噛み殺す。  少年のその姿に、神父はおやおやと両肩を竦めた。 「本当に髪の色が変わるんですねぇ。でも――いいんですか?」 「――!」  銀色の髪へ変わった少年の周囲に、今度は何重もの檻のごとき輪を、神父は積み上げたようだった。 「力の絶対量だけで言えば、君は俺には遠く及びません。そのやり方では単に時間の問題です」 「……!」  少年を生け捕りにしたい手加減が相手方にはある。とはいえ、悪魔を名乗る者との力の差はあまりに歴然としていた。  今朝方赤い髪の娘が持ってきてくれたお札も、個々の力は決して大きくはなく、小さな紙に込められる程度でしかない。
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