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「……っ……」
命の光の反動で全身を蹂躙し、脱力させていく痛みの中で。
少年はある決意と共に、赤く観える札を一枚取り出していた。
――曖昧なら曖昧でいいんじゃない? と。
自らの形に乏しい少年と、短い時を過ごした赤い髪の娘は、珍しく儚く笑って口にした。
「自分と周りの区別があまりつかないのが、ユーオンなら……それを強みに使えばいいだけでしょ?」
少年の五感は生まれつき、近くに在るもののことまで我が事と感じる故障品だ。
本当はそれこそ、この少年に数々の呪いをもたらす最大の因。それを知りながらも、少年が決してその感覚を手放さないことをも知った娘は、その愚かな在り方ごと受け入れるかのようだった。
「普通は自分以外の誰かが込めた力なんて、五割再現できれば上々ってところだけど……」
どれだけ腕の良い力の使い手でも、特別な縁で繋がる相手以外の他者の力を、十分に制御することは難しい。
だからその札は本来、花火程の価値しかないと娘は笑った。
「でもユーオンなら――……ユーオンがこれを使えば……」
自身と他者の境界が曖昧な少年には、それは自身の力と言える。
そしてこの少年の大きな特性。ごく少ない命でその生を繋げられる、花火を爆弾の威力に変える暴走の因子までは誰も知らなかった。
「――な?」
神父は突然、何もない空間に現れた強過ぎる噴水のような力と、それにより吹き消された自らの力に目を丸くした。
「――!」
同時に頭上から襲い来た気配に、攻守備えた輪形の魔法杖を咄嗟に振り上げた。それで青銀の剣の斬撃を何とか防ぐ。
「ぐ――!?」
それが水の浄化を司る輪杖でなければ、剣から発された白い光が神父の命を削いでいただろう。剣を受け止めた輪が吸収する、光の一部を受けて顔を顰める。
「……――っ」
斬撃を防がれ、その先に向けた光も散らされた少年は、本来ならその程度で尽きた命であるはずだった。
「なるほど……君もどうやら『水』の系統の化け物ですね」
しかし先程の荒れ狂う水の力の直下にいた少年は、それを受けて逆に回復できることも計算の内だった。
「自然の一部たる精霊の特性か――……『水』の気は君には、大きな力となるわけですか?」
近いが違うと感じた少年も、そんな情報を敵に言うわけもない。赤い髪の娘がオーソドックスに込めてくれた五行の力……木火土金水と観える内、今度は火の札をその手に取った。
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