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その赤い天使は、有り得なかった奇跡の幻の世界に存在した処刑人。
茜色の髪の少女の代わりにいた、銀色の髪で赤い目の少年を、その力を奪うために殺した殺戮の人形だった。
――お願い……誰か……水燬を、助けて。
水華という少女の代わりに存在した少年の名は、その少女にとても近い。そして瑠璃色の髪の娘とは兄弟のように仲が良かった。
――助けて……水華――……。
瑠璃色の髪の娘はそこで、存在しない少女に助けを求める程に、有り得てほしかったはずの世界で追い詰められることになった。
何故なら娘の目の前で――赤い目の少年はあまりに唐突に、赤い天使に命を奪われたからだ。
だからおそらく……それがただの幻であったとしても。
瑠璃色の髪の娘は誰より赤い天使を怖れ、恨んだはずだった。
「……ウソ……だ……」
銀色の髪で青い目の少年に今わかるのは、その情報だけだった。
場に降り立った赤い天使は、少年が助けになると決めた妹分の――確実に敵。つい今までそれは、違う空間で茜色の髪の少女を襲っていたはずなのだ。
理由もわからず座り込んだまま、少年は動けなかった。
神父は足下の幼子をかばうように立ったままで、淡々とその幼子と人形の名前を少年に告げていた。
「ソールは君が……君のあの白い光が、『ピアス』の求める誰かの力にそっくりだと言うんですよ」
自分に向けられた神父の声にも構わず、少年は赤い天使から目を離せない。神父は穏やかに先を続ける。
「『ピアス』は旧い、神暦の頃に存在したと言われる亡国で、伝説となった人間の少女をモデルに造られた人形なんです。しかしソールが言うには、『ピアス』が着けるあの赤い鎧は、物好きな悪魔が、本物のピアス少女が着けていた鎧を入手した物らしくてね」
「…………」
ソールと呼ばれた、神父の足下で佇む幼子は、少年をまだ見つめつつ神父の服の裾を掴んでいた。
「『ピアス』には――その赤い鎧には、本物のピアス少女の記録が宿されています。ソールはそれを、読めるのですが……」
その幼子こそが人形使い。赤い天使の人形を操り、また記憶まで把握しているのだと、事も無く神父は告げる。
「それによると――君は、『ピアス』のお兄さんらしいですよ? ……ユオン・ドールド君?」
そして少年が未だ思い出せないことを、あっさり白日の下に晒していた。
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