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「……――え?」  最早完全に戦意を失ってしまった少年が、そこで初めて赤い天使から目を離し、戸惑うように神父の方に振り返った。  少年の放心ぶりに神父は冷笑しつつ、足下で裾を掴む幼子のためにその先を続ける。 「ソールは俺やアラス君を、『ピアス』の兄に似ているからと、目をかけてくれていたんですが……まさか限りなく本物の可能性が高い兄に出会えるとは、思ってもみなかったようですよ」 「……」  幼子は神父を見上げ、意味ありげに黙り込んでいる。 「どうして君が『ピアス』の兄にそっくりなのか、説明できる事柄としては……俺や水華さんと同じような事情くらいしか、考えられませんけどね」 「……な――?」  そこで出た思わぬ名前に、少年は極僅かに気を取り直した。無意識に剣だけはその手に取り戻していた。 「アンタや水華と……俺が、同じ――?」 「…………」  神父だけを見て言葉を発した少年に、幼子は何故か複雑そうな目線を向ける。  そして神父は、彼が彼である事情をも、あっさり口にした。 「俺も君も……そして水華・竜牙(たつき)・クオリファーも。遠い昔、既にその命を落とした『死者の一族』だと思いますよ?」 「……――」  「死者の一族」。それはつい先日に、御所の偵察に来た乙女の口からも出た言葉だった。 「……何で――」  少年も既に知っていたその名。本来は、死した自らの体を別の媒介に宿した魂の力で動かす、異端の化け物。広義には一度死を迎えながら、何らかの方法で存在を繋ぐ者の総称に両目を歪める。 「水華が何で……そうなるんだ?」  その少女の歪さを少年はとっくに知っていたが――  そこに確固とした形が得られるのは、おそらくこれが最大の機会だ。そのまま神父をまっすぐ見返していた。 「君は――自分が死者であるということは、否定しないんですね」  神父はそんな少年に、何処か歪んだ微笑みを浮かべる。 「何らかの方法で、今その体を使っている君と同じように……この体を与えられ、我がものとして使っている俺と同じように。水華・竜牙・クオリファーの体を上手く使っているのが、俺の……実の妹だからですよ」  いったいどれだけ少年に、唐突で衝撃的な話を、真っ向からつきつければ気が済むのか。  実感はできないながら、全て真実であるとわかる神父の声調に、銀色の髪の少年はただ強く剣を握り締めていた。
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