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「アンタが……水華の、兄……?」 「正確には、彼女が生やしている羽の持ち主。ミラティシア・ゲールの腹違いの兄だったのが、ジェレス・クエルですよ」  その「魔」の名の主と、自らは別人であると神父は言った。その言葉の意味は―― 「困ったことに俺は、ルシフージュという悪魔なのに、天の民に生まれてしまってね。悪魔の血に目覚めて実の妹を殺した後に、兄の手で『黄輝の宝珠』に封印されていたんですよ」  だから今は、彼はその悪魔でしかないと、楽しげにすら見える顔で語る。 「じゃあ、アンタがやっぱり……」  「死者の一族」という言葉を最初に口にした、偵察者の無力な乙女。その探し求めた主は、やはりこの「魔」のはずだった。 「アンタも守護者になれるはずだった……『資格者』なのか」  「黄輝の宝珠」の家系の血を持ち、実の従兄と妹を手にかけ、天の島から姿を消した者。偵察者の乙女が話していたことだけでも、この状況を理解するには少年には充分だった。 「――そこまで気が付いていたんですか? つくづく、驚きの現状把握能力ですね、君は」  青銀の吸血鬼が何度となく口にした、「資格者」という言葉。その真意をとっくにそう関連付けていた少年だった。 「ソールと同じですね。君がもし人間であったなら、ソールのように悪魔使いになれたでしょうに」 「……!?」 「悪魔の望みを把握し逆手にとることで、ソールは数々の悪魔と契約を結び、傀儡の人形として動かしています。それは俺も、アラス君相手にも例外じゃありません」  足下で黙り続ける幼子の頭を撫でながら、今度は神父は、身動き一つ取らずにいた赤い天使を改めて見直していた。 「『ピアス』だけは例外ですけどね……それでも『ピアス』の望みも、ソールは叶えたいと思っているんです」 「……――」 「俺達と一緒に来ませんか? ユオン君。君がたとえ、彼女を思い出せないでいても……『ピアス』は君の妹ですよ」  生粋の人形らしく、赤い天使は表情を変えず、喋ることもない。ただ少年を黒い目で見つめ続け、その赤い天使を神父はまるで憐れむようだった。  立ち上がる力すら戻らない少年に、そうやって悪魔の誘いをかける。
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