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「俺、は…………」
少年の脳裏には、あまりにも沢山の情報が混在していた
誰かの望みと旧い夢。昏く赤い夢とそれに奪われた自身の心。
青白い剣の夢と、有り得なかった世界の幻。
そして誰か達との束の間の、優しい時の記憶が錯綜を続ける。
赤い天使がそこで、すっと自然に手を差出していた。そのひたむきな想いが、少年をふと真っ白にする。
全ての混乱を放棄するように。少年は、その手を取りかけてしまった。
しかし空虚な世界には唐突に、終わりの時が訪れていた。
「――!!」
「!?」
突然薄暗い空間全体に、白い亀裂が入った。神父は咄嗟に足下の幼子を抱きかかえる。
「仮にも守護者が宝珠の力で創った空間を……まず見つけた上、こうも完全に破るとは――」
その脅威の特殊さに思い至ったらしい。神父は少年を今連れて行くことをすぐに諦めていた。
「……君のことはまた後日、改めて迎え入れましょう。それまで俺の妹を宜しく頼みますよ――……ユオン君」
少年が彼らの元に来ることを、全く疑わない声。それだけ言い残し、赤い天使と幼子を連れ、空間の崩壊と共に悪魔である神父の姿は消えていたのだった。
「あ――……」
それに対し、銀色の髪の少年は、否定の言葉を何も返せなかった。
ボロボロと崩れ落ちていく、一つの小さな鉛色の世界。その断片を前に……同じように崩れ落ちた、ここにいる少年の存在理由。
その短い時間の記憶を、なるべく手放すために――
座り込んだままの少年は、事情を全てはわからない金色の髪の少年へ、躰を譲っていたのだった。
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