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 ジパングに存在するという聖地「伊勢の宮」に、その後一行は、驚く程あっという間につくことになった。 「さすがはおとーさんの『飛竜』だね♪ 気持ちいいー早い~」  四本足で大型の、コウモリの羽を持つトカゲのような獣の背に一行は乗る。空を行く瑠璃色の髪の妹分は、京都の南の自宅に帰った時以上にご機嫌の様子だった。 「……オレは初めて、乗った気がする」  過去の事情で右前足だけが無く、全体像としては灰色に観える獣。少年は複雑な思いで紫の目を向ける。  レイアス・ウォーデン。近年滅んだ「霊獣族」という千族の生き残りの養父。前髪に黒いメッシュの入る灰色の短い髪に、髪より薄い灰色の眼が地味で、物静かな顔が何故か少年にそっくりな若い男が、少年と妹分の紛れもない養父だった。  少年と妹分、気を失って眠り込む茜色の髪の少女と、その少女を大事そうに膝に乗せている占い師。それらをまとめて、自らの「力」である「霊獣」の背に乗せて、空路をとると決めた養父に少年は不安な思いで尋ねる。 「……五人も乗って大丈夫なのか? コレ」 「そうだな――本来、ヒトを乗せられるような『実体化』は、俺がここにいるとできないはずだけどな」  養父は長剣を背に、少年と似ている袖の無い黒衣と黒い下衣を、細身でありながら鍛えられた身体に着けている。少年の不安の理由を知るように、穏やかに笑いかけた。  その養父――「霊獣族」という化け物は、自らの体とは別に、「霊骨」という固有器官を媒体とする獣、「もう一つの体」を持つことで知られていた。  「獣の自分」は見えても触れない霊体に近く、霊獣として具現化されるという。本体の自分とも感覚を共有できる、まさにもう一つの体を彼らは持つことになる。 「完全な実体とまではいかないが、ヒトを乗せる硬度くらいは、短い時間なら何とかなる。俺の特技はそれくらい……少しだけ『力』を視て、好きにいじることだから」  霊獣族にとって、「もう一つの自分」の霊獣は、本体である人型の自分と同格になる。しかし実体をとれるのは、どちらか片方だけであり、霊獣を本体とする――つまり「実体化」することも可能というが、それは本来、人型の自分が代わりに霊体化する局面のはずだった。
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