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 少年の無事を心から喜ぶ妹分は、その少年の「銀色」――何の流血も厭わない苛烈な半身を、今まで全く恐れることはなかった。養父母ですら警戒、というより注意していた少年に対して。 「オレは自分の身を守っただけだろ? 別に礼なんて……」 「えー、何で? 私は『銀色』さん好きだけどな? いつも精一杯、ユーオンと同じで、私のこと守ろうとしてくれるもん」  その本意に妹分はとっくに気が付き、そのまま受け入れていた。 「どうせならユーオンのことも守ってくれた方が私は嬉しいし。ユーオンも『銀色』さんも、何かいつも危なっかしいんだもん」  だから妹分は、少年の無事が本当に嬉しいようだった。 「……」  その妹分の、あまりに嬉しそうな顔付き。  理由のわからない混乱だけが残った少年は、思わず……―― 「なぁ、ラピス……」 「――?」 「オレ……思ってた以上にろくでもないっぽい」  妹分は日頃、毒のある物言いをする。しかしその観察力が優しさでもある。困ったような気分で笑い、少年は気楽に口にしていた。 「元々オレがこうしてること自体、ろくでもないことなんだけど。記憶が無いのも、多分都合が悪いからなんだ」 「ふーん……なるほど、ありそうな話だよねー?」  並んで歩みを続けながら、あっさり妹分は受け流してくれる。  だから少年も気軽に、困り笑いを浮かべ続ける。 「……いいのかな。そんなんでずっと、ここにいて」  何故ここで今、そうした疑問が浮かぶのかも思い出せない。  今日は一旦、伊勢の何処かで宿をとると決めた養父に続き、人里に続く閑静な山道を歩きながら少年は俯いていた。  妹分はそんな少年に、穏やかに微笑んだままだ。  そうして曖昧なままの少年に無理に形を与えるように、厳しさを返す。 「ユーオンは……ろくでもない奴じゃないヒトになりたいの?」 「……――……」  それが例え、ヒトにとどめを刺しかねない鋭さであっても、この妹分は真摯に、その深い青の目でいつも核心を探す。  その毒をこそ求めて、この話を始めた少年を知るように。 「いいや……そうなれるなんて、思ったことはないと思う」  少年は苦く笑いながら、あくまで気楽な口調で続ける。 「でも、あんまりろくでもないなら、いない方がいいとは思う」  微笑み続けてくれる妹分に応えるように、自然にそう笑った。
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