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 伊勢の地で風流な宿を見つけ、広い和室に案内された頃に。  ようやく目を覚ました茜色の髪の少女は、想定外の人物に、寝起きから奇声をあげることになった。 「何で、何でレイアス!? あたし絶対帰らないからね!?」 「相変わらず元気だな、水華……大事無さそうで何よりだ」  占い師の方は既に、飛竜単体で京都に送ったため、三人もの子供を一人で連れる若い父といった感じで、心なしか宿の女将の眼差しも温かいのだった。 「へぇー……じゃあ『地』に行くには世界の何処かの聖地から、聖地の力を借りて飛べばいいってこと?」  座卓を囲んでお茶を飲みながら、一行は浴衣姿で妙にまったりと、今後について話を進める。 「水華の羽なら、一度覚えれば何処の聖地からでも行けるだろうな。でも最初は、一番近い聖地から飛ぶのにこしたことはない」  元々聖地とは、神もしくは天上の鳥に強い力を与える区域だ。飛行能力を持つ化け物より、単体では飛ぶ力が弱い天の民が、地上と天を行き来するために必要な場ということだった。 「『火の島』から飛竜を使えば、ラピスとユーオンも連れていける。しばらくはそうして揃って動こう」 「火の島って何、おとーさん? そんなの世界地図にあった?」  世界中を回った妹分に、少年も何となく、うんうんと頷く。 「ああ。これは天の民か、ディアルス王家しか知らないことだし、なるべく口外しないように気を付けてくれ」 「何々? 何その美味しそうな秘密って?」  身を乗り出す茜色の髪の少女に、養父は苦笑する。 「ディアルス上空には、かつて南の島に存在していたはずの南の聖地が漂ってるんだ。ちょうど『地』がこの世界で、ジパングを中心に天を漂っているように」 「聖地が……空を漂うのか?」 「ディアルスではそれは、凍土だった国の太陽として、国を温めてくれた天空の島の伝説が残るらしい。陽の下の凍土ディレス……ディアルスの前身の国名も、そこから来てるというからな」  今ではそこは、かつて灼熱の大地と言われた熱も冷めやり、ただ時空要塞のような神殿が無人で漂うだけだという。 「ディアルスから火の島までは、ワープゲートで繋がってる。他の聖地は、ここ伊勢と北の島の遺跡以外、もう地の底か湖の底というから……まずはディアルスに向かって、そこから火の島に行くのが無難だろう」  そんな世界を飛び回る養父の言に、異論を差し挟む子供はいないのだった。
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