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その宿に泊まる前夜、寝不足だったという茜色の髪の少女。
それは夜中に起き出した少年を不審に思い、後を追っていたからだということを、金色の髪の少年は知らなかった。
「アンタさ。普段は何処まで、アンタの時の記憶残ってるわけ?」
「……」
伊勢に行く前夜、小さな庭の一角の岩に座る銀色の髪の少年に、縁側から顔を出した少女は淡々と尋ねた。
「大体の時はアイツは、事実だけ覚えてて、理由や途中経過がわからないって言うけど。何かそれ――アンタに都合良過ぎる気がするのよね」
その上事実そのものも、この夜の問答のように、金色の髪の少年は覚えていないことがあると、翌朝に少女は知る。
何も答えない少年に、少女は呆れたように息をついた。
そしてこの銀色の髪の少年を追ってきた、一番の理由を口にする。
「何でアンタは……あたしにあの吸血姫と戦うなって、アイツに言わせたわけ?」
「……――」
後は少年の答を待つように、黙り込んだ茜色の髪の少女だった。
金色の髪の少年は、実際のところ――
こうして夜間、意識のない時に変わった時の事は覚えにくく、様々な夢についても印象の強いシーンしか思い出せずにいた。
日中、意識がある時に銀色の髪に変わると、基本的に自身の言動と行動だけ覚えており、外界のことや自身の思考はわからなかった。
茜色の髪の少女と白銀の髪の神父の関係は、御所の偵察者から聞いた話を合わせ、ある程度わかっていた。
赤い天使の人形が、自身と強い関わりを持っていること。しかしどんな関わりか、思い出せないこと。現在の大きな混乱の中、金色の髪の少年はそれだけ把握している。
そうして把握できることも、銀色の髪の少年が言葉にする程に強く思ったことに限られ、その意味で秘匿可能ではあった。
銀色の髪の少年は、言葉にするのが苦手な方だ。
だから翌日のように神父と少女の関わりや、赤い天使が少年の妹とはっきり告げられたことも己の言葉で飲み込めず、曖昧なイメージのままだった。
茜色の髪の少女は吸血姫と戦うな。
銀色の髪の少年は躊躇いつつ、答えた方が良いことにはなるべく誠実な答を探す。
「……あんたとあの女は、間違いなく……同じ血を持ってる」
「……」
「何でなのかは、俺にはわからない。でもそれだけじゃなくて……あの女の持ってる武器とは、あんたは相性が悪い」
それ以上具体的には言えずに、それだけ助言した少年だった。
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