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「ねーねー。ユーオンはもう、温泉行った?」 「……へ?」  突然浴衣姿の妹分から声をかけられ、たまたま前日と同じように夜風に当たりに外に出ていた金色の髪の少年は、驚きながら振り返った。 「おとーさんと水華も行ってきたみたいだよ? こんないい宿、滅多に泊まれることないんだから、行ってこないの?」  にこにことご機嫌な妹分は、白い生地に川のような波打模様の散在する浴衣を着ている。宿の庭の背もたれのない木の椅子に座る、金色の髪の少年の隣にちょこんと座る。 「……オレは別に、温泉とかそんなに興味ないし」 「そーなの? つまんないのー。人生楽しんだ者勝ちなのに~」 「……――」  ただ唖然と、目を丸くして瑠璃色の髪の妹分を見る少年に関わらず、妹分はご機嫌に話を続ける。 「あーあー、残念。これで後おかーさんがいれば、凄く楽しい思い出になっただろうになぁ」 「……」 「でもおとーさんは帰ってきたしね。それなら後は水華が無事に黄の守護者とかになっちゃえば、もう心配事はないのかな?」 「…………」  そこで少年はじーっと、危うげに明るい妹分の姿を、真面目な疑問で見つめ続ける。  少年の頭をふとよぎっていたのは、花の御所の赤い髪の娘だった。 ――ラピ、何か様子が変なこととかはない?  術師の家系であり、鋭い霊的な感覚を持った娘の、更に天才的と言われた従弟の言葉も。 ――ラピのね――……お母さんの霊がうろついてたって言うの。 「……」  今この瑠璃色の髪の娘にならば、それを訊ける。  混乱しつつも冷静に見定めた少年は、これまで躊躇い続けたある問いを口にした。 「……なぁ」 「――? 何、ユーオン?」 「アフィじゃなくて、ラピスの本当のお母さんって……どんなヒトだったんだ?」 「私の――本当のお母さん?」  キョトンと妹分は、不思議そうな目で少年を見つめる。  自ら命を絶ったというその女性について――あまりに明るく、屈託のない調子で答えていた。 「何だろーねぇ……私も六歳までのことだから、もうほとんど覚えてないけど……良く言えば可愛い、悪く言えば子供っぽい感じのヒトだった気がするなぁ」 「……?」  真摯にいつも核心を探す深い青の目は、娘自らについても例外ではない。その嘆きをあっさりと、瑠璃色の髪の娘は晒す。
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