直前  -the calm tempest-

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 竜牙水華(たつきみずか)は生まれつき、反省という思考とは縁が無かった。  なのでこの、しきりに現状を省みている、瑠璃色の髪の相方を鬱陶しそうにする。 「ねぇ水華。ほんとにこれで良かったのー?」  水華の義理の姉の養女で、一つ年上でも義理の姪にあたるラピス・シルファリー。通称ラピのにこやかな追及が今日も煩い。 「ジパングに帰るの、私だけだろーなって思ってたのになー。水華が自分から私についてくるなんて、信じられない~」  これまで少女達がいた「南の島」から、世界地図の中央「ジパング」という島国に向かう船で、海を見ながら二人は話す。 「るさいなぁ。あたしがジパングに用があっちゃいけないわけ?」  おっとりとした速さで進む中規模の客船。水華の短いスカートと、髪を纏める黒いリボンが風にはためく。長い茜色の髪を巻き、毛先を二つに分けたポニーテールが解けないか、色素の薄い水色と紅の瞳で水華は追いかける。 「だって水華、あれだけ南の島のこと、気に入ってたしさ」  無愛想な水華とは対照的に、ラピは常に適度な笑顔だ。肩までの直毛と、首の後ろだけを長く伸ばす髪を揺らし、深い青の目で水華を見つめる。 「私達を置いてくれたザイさんも、城の他のヒト達も、水華がいなくなるの残念そーだったし。クアン君もサエル君もエルルちゃんも、いきなりでビックリしてたよ?」 「そりゃ、あんたが、ユーオン迎えに行くので帰ります! って、いきなり言い出すからじゃない」 「私は元々、そろそろお暇しなきゃって思ってたんだよ。でも水華は、南にずっといたいかな、と思ってた」  水華を見下ろす体勢で、ラピは柵の外側から足をかけて立っている。無袖の功夫服のような身軽な服装で、水華も水夫服と、二人して活動的な恰好が好きだ。
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