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「何処にも行ったらやだよ――……ユーオン」
唖然としたまま白い笑顔の娘を見つめる少年の顔に、娘は拙く両手をかける。そうして自身の深く青い目を直視させる。
その姿は最早、黒い髪の少女を消し去り、白く笑う瑠璃色の髪の娘だけを映していた。
「ずっとここにいる。ラピスのそばにいるって、約束したよね?」
「……――……」
「ラピスの敵をユーオンが殺す――そうしてくれればラピスもずっと、ここにいられるんだよ」
その娘には少なくとも一人。
娘の存在を脅かす誰かがいると、白い娘は訴えかける。
「そのために邪魔な心があるなら……」
ふっと娘は、白金に光る青い目で、悪意の欠片もなく微笑む。
「私が全部……忘れさせてあげるから」
既にその敵を知っている少年の、迷いも白い娘は知っている。娘の目から目を離せない少年に、その光を写すように近付け……。
「何なんだ、いったいあんたは」
ひょいっと。あまりにあっさり、「力」を視る眼を持つ男が間に入った。
軽々と白い娘を片手で持ち上げていた――何と娘の襟首を掴んで。
「……へ?」
金色の髪の少年は、ようやくそこで我に返る。
「あれれぇー。おとーさん、どうしてここに?」
首根っこを掴まれ宙ぶらりんという、ともすれば虐待な扱いを受けながら、瑠璃色の髪の娘は丸まって明るく笑う。
灰色の眼の養父は、至って無愛想に応対する。
「誰がおとーさんだ。俺は神獣を子供に持った覚えはない」
「ヒドいなぁ、少なくとも私、獣じゃないんだけどなー?」
「違うのか。どう見てもラピスの神獣が呼んだ幻だろ、あんた」
「やだなぁ、ホントにイイ眼してるんだから、おとーさんてば」
「へ……?」
呆気にとられる少年の前で、白い娘はふふふ、と明るく笑った。
「私が誰か、ヒントはあげられないけど……せめて『白夜』って呼んでほしいな?」
そうして唐突に白い姿は薄まっていき、茫然としたままの少年の前で、完全に消えた白い娘だった。
「……あれ……何?」
「さぁな? 確かなのは、本物のラピスはもうとっくに部屋で寝てることくらいだ。寝る前に気休めに笛を吹いてたが……」
ぽんぽんと養父は、至って平静な様子で少年の頭を撫で叩いた。
「昔からたまに出るんだ。あまり深く考えないでいい」
さらりと聞き捨てならないことを残した養父に、少年はひたすらポカンとし続けるのだった。
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