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そのメモをくれた相手を思い出しながら、少年はふっと茜色の髪の少女に話しかけた。
「なぁ、ミズカ。万能の宝珠がもしも手に入ったらさ」
「――ん?」
「万能ならその力で……オレの羽、くっつけてよ」
は? と怪訝な顔の少女に、平和に笑い返す。腰元の剣の柄――そこに巻付けてある、メモの主から預かった蝶型のペンダントをちらりと見て、再び困ったように笑った。
それは初めから、誰も自分のことを知らない世界で目を覚ました少年にとって、強く優先すべき事柄だった。
そのために昨秋に家が無人となった後、誰も知らない少年の名前を引き出した占い師を探し、一人で家を出た。その後にしばらく、花の御所へと身をよせることになった少年だった。
花の御所で生活する間に、少年はある雨女と偶然出会う。
――あんたがもし、アイツを殺したことを、後悔してるなら……。
少年の体の本来の主を過って殺して、羽を奪った雨女がメモの主だ。
雨女はただ、形見が欲しくてそうしたことを少年は知っていた。
――アイツの羽をオレに渡してくれ。それがあればもしかしたら……まだアイツは、目を覚ますことができるかもしれない。
本当にそれができるかどうかはわからない。
しかし可能性があるなら、見過ごすことは少年にはできない。
それこそ少年が、長い時を待ち続けた理由に他ならない。
――俺……――を助けたい……!
同じように少年が、この世界で約束したいくつかのこと。
どれもが少年には同じ前提の、言葉足らずの拙い約束だった。
「オレは多分……できることがある内は、ずっとここにいるよ」
その占い師の元を訪れた理由。最後の問いを口にする前に。
金色の髪の少年は己の実情を、わかっている範囲で説明していた。
「オレは……わかりやすく言えば、剣の精霊だと思う」
「……ほう?」
剣の精霊とは、少年を「花の御所」に引き受けた者――呪術師で、また「宝珠」の守り手である公家から伝えられた見立てだ。
勘の良い少年には確かに、一番納得できた解釈だった。
「何でそうなったかはわからない。何も覚えてない」
でも、と。少年は暗く深い紫の目に、明らかな憂いを浮かべる。
「この身体は元は妖精だ。それをオレが……オレの本体のこの剣が、剣の精霊にしたんだと思う」
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