15/18
前へ
/425ページ
次へ
 そのメモをくれた相手を思い出しながら、少年はふっと茜色の髪の少女に話しかけた。 「なぁ、ミズカ。万能の宝珠がもしも手に入ったらさ」 「――ん?」 「万能ならその力で……オレの羽、くっつけてよ」  は? と怪訝な顔の少女に、平和に笑い返す。腰元の剣の柄――そこに巻付けてある、メモの主から預かった蝶型のペンダントをちらりと見て、再び困ったように笑った。  それは初めから、誰も自分のことを知らない世界で目を覚ました少年にとって、強く優先すべき事柄だった。  そのために昨秋に家が無人となった後、誰も知らない少年の名前を引き出した占い師を探し、一人で家を出た。その後にしばらく、花の御所へと身をよせることになった少年だった。  花の御所で生活する間に、少年はある雨女と偶然出会う。 ――あんたがもし、アイツを殺したことを、後悔してるなら……。  少年の体の本来の主を(あやま)って殺して、羽を奪った雨女がメモの主だ。  雨女はただ、形見が欲しくてそうしたことを少年は知っていた。 ――アイツの羽をオレに渡してくれ。それがあればもしかしたら……まだアイツは、目を覚ますことができるかもしれない。  本当にそれができるかどうかはわからない。  しかし可能性があるなら、見過ごすことは少年にはできない。  それこそ少年が、長い時を待ち続けた理由に他ならない。 ――俺……――を助けたい……!  同じように少年が、この世界で約束したいくつかのこと。  どれもが少年には同じ前提の、言葉足らずの拙い約束だった。 「オレは多分……できることがある内は、ずっとここにいるよ」  その占い師の元を訪れた理由。最後の問いを口にする前に。  金色の髪の少年は己の実情を、わかっている範囲で説明していた。 「オレは……わかりやすく言えば、剣の精霊だと思う」 「……ほう?」  剣の精霊とは、少年を「花の御所」に引き受けた者――呪術師で、また「宝珠」の守り手である公家から伝えられた見立てだ。  勘の良い少年には確かに、一番納得できた解釈だった。 「何でそうなったかはわからない。何も覚えてない」  でも、と。少年は暗く深い紫の目に、明らかな憂いを浮かべる。 「この身体は元は妖精だ。それをオレが……オレの本体のこの剣が、剣の精霊にしたんだと思う」
/425ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加