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「花の御所」に居候後、着用を始めた袴に下げる剣。その黒い柄には透明の鈴玉が填まる。剣の刃が仄かに醸し出す青白い光に、占い師は成る程、と難しい顔で頷いていた。
「妖精たる羽も無しに、自我を保っていられるのはそのためか」
それが少年が、妖精でない理由とみなしていた彼女は、
「今やお主は……その自我を剣に依存した、『剣の精霊』」
しかし、と、それでも納得がいかないように首を傾げる。
「その躰自体がそもそも、『刃の妖精』であったようだがね?」
「……そうなんだ。だからかな――オレが勝手に動かせるのは」
淡々と少年は、己が身の呪われた真実を、躊躇いなく口にする。
「オレは、この妖精が死んだ時から、勝手に身体を動かしてる……この剣の中にいる誰かなんだけど」
その正体は、全く覚えていないとしても……それが呪われた沙汰であることを、初めから少年は知っていた。
だから少年は、そこに来た目的の問いを笑って口にする。
「アンタならわかるか? この妖精は――」
「………」
「もう一度この身体で、コイツが目を覚ますこと、できるのかな?」
もしもそれが、可能であるなら。「剣の中の誰か」は躊躇なく、「刃の妖精」にその身を返すと――
穏やか過ぎる微笑みで言う少年に、占い師は眉をひそめていた。
「それは……今のお主の死を意味するぞ?」
「そうかな? オレは元々、ただの剣だし」
それが元の状態に戻るだけだと、惜しげもなく少年は微笑む。
「戻りたいわけじゃないけど。それなら、戻らなきゃダメだろ」
誰かの生を犠牲にしてまで、自らの活動を続ける選択肢はない。少年にとって、それはわかりきった答だった。
「…………」
自らの身を「妖」としてまで、その生を繋いできた占い師は、潔良過ぎる少年の答に不服そうだった。
「その妖精が消えたところで――惜しむ者は、あまりおらぬが」
妖精という種族はそうした、基本的に情の薄い生態であることを、知っているからというだけではない。
「お主が消えれば……多くの者を、哀しみが襲うぞ」
今の少年の周囲にいる者を、かなりの部分見知っている彼女は、半ば以上私情でそれを少年に伝える。
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