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「何か私……ずっとユーオンに、無理させてる気がして」
「何で? 付き合わされてるのはラピスだろ? 狙われたのはオレとミズカなんだからさ」
茜色の髪の少女は、少し離れた武器屋を物色している。妹分と少年はそれを遠目に見守った状態だった。
「オレもちょっと、武器屋に行こうか悩んでたんだ。剣のことで、ずっと気になってたことがあるから」
「……そーなの?」
「うん。でも普通の武器屋じゃわかりそうにないし、今はまだいいかなって」
少年が気になっていたのはただ一つ――
この宝たる剣の、黒い柄に填まる透明な鈴玉が取り外せるのか。取り外した時に宝剣の機能はどうなるのか、それだけだった。
石で舗装された道と塀、石造りの民家と市場が、程良い密度で立ち並ぶ街並み。それを見回し、穏やかに苦笑って言う。
「何でここにいるんだろって……何となく、そう思って」
いつか遠い何処かで――この石ばかりの町に似た灰色の町で。
――あの赤き鎧には未だ、あの娘が宿っている。
とっくに死んでいた町のように、物憂げな誰かの声を聴いた時、確かに少年は、自身にもできることがある。そうわかっていたはずだった。
――方途はわからぬ――が。あの娘のことも……私は救いたい。
最早自らにそれは叶わぬと、銀色の髪の少年に望みを託した誰か。少年に生き往く願いを与えた声が確かに響く。
「大切な理由があったはずなのに……それを思い出せなくて。でもそれなら、オレがここにいる意味はもうないんだ」
「…………」
それが今悩んでいた、透明な鈴玉に関わったこと。生きる理由を待ち続けたはずの少年は、まるで全てを失ったかのような空虚さだった。
私も――と。
不意に瑠璃色の髪の少女妹分は、何処か遠い目をして呟いていた。
「大切なことを忘れてること……前は、覚えてたはずなのに……」
「……?」
振り返った少年に、妹分はううん、と、珍しく苦笑う。何でもないと、少年と同じように返したのだった。
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