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金色の髪の少年が覚えているのは、限られた事柄だけだ。
自身は「水」の家系と口にした白銀の髪の神父も、後一人の「資格者」――茜色の髪の少女の兄だと、言葉自体を思い出すことはできなかった。
それでも花の御所にいた頃に、偵察者の女から聞いた話は覚えていた。
――わたくしの主は、悪しき『魔』へ変貌してしまったのです。
それが黄の守護者の候補で、自身の前に現れた神父であることはわかっている。
――主は天に悪魔を呼び込み、自らの妹を手にかけ、この二百年、行方が知れない状態となりました。
その事変で死んだ「魔」の妹が、占い師が話した少女の羽の持ち主。神父とのやりとり自体は思い出せずとも既に関連付けていた。
しかしそれを口にする気には、どうしてもなれずにいた。
ところで現在、一行がそうして話をしている場所と言えば。
「それにしても、『地』が一番近付く時間って、いつ頃なの?」
既に「火の島」入りをしていた一行は、狭い一角で携帯用のテントを張り、一夜が明けかかったところだった。
「まだもう少しかかるな。今の時期だと夜が明けてから後少しらしいから、完全に陽が出たら飛んでみよう」
「火の島」というその時空聖地――正方形の平らな地表で、辺縁に太く長い石の円柱が数メートルおきに立つ天空の島は、大きな石の神殿が空に浮かんだような小さな島だった。
島の中央には同じように正方形で石柱に囲まれ、外壁もある神殿が存在している。しかし神殿以外は石床と、島に来るためのワープゲートの泉しかない、風通しの良い寂しい場所だった。
「それなら退屈だし、神殿探索しない? そんなに広くないし」
「いや、仮にも聖地だからな。何があるかわからない」
探索はまた今度、と、養父は真面目くさって言う。
「そうだよ、水華。北の島に行った時も大変だったじゃない?」
年の暮れに北の島――そこにある四天王の城と、聖地に足を踏み入れていたらしい妹分は、聖地内に閉じ込められるというトラブルがあったと語った。
「その頃は北には、怖いヒト達はいなかったけど……」
今は敵の根城のはずだと、占い師が言う場所を思う妹分の顔は浮かない。その北の聖地から敵が来る可能性を、少年も思っていた。
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