直前  -the calm tempest-

4/20

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/425ページ
「別に、ジパングと南程度の距離なら、いつだって行けるし」 「あはは。すっかり水華も、おとーさん達と一緒で放浪人だねぇ」  旅する二人の少女は、南の地――十五年前までには鬱蒼と森が茂り、一つの城しか無かった島で、城主の厚意で滞在させてもらっていた。 「それじゃやっぱり、水華もザイさんとクアン君のこと、気に入ったでファイナルアンサー?」 「誰がよ! アイツらいつかまとめて見返してやるから、その日まで首を洗って待ってろってだけよ」  かつて四天王などと呼ばれ、強い「炎」を持った城主と、城主の甥である少年。同じ「炎」を持ちながら歯が立たなかった水華は、ラピを睨むしかない。  この小さな世界――「宝界」には、数々の神秘「力」が存在している。そんな力をほとんど使えない人間に対して、人間の姿をしながら人間ならぬ力を持つ化け物をまとめて「千族」と呼ぶ。二人が出会ったのは、その中でも特に強い力を持つ者達だった。 「ムリムリ~。だってザイさんは『四天王』で、クアン君は次の『守護者』なんでしょ? ものすっごく強い魔族さんと天のヒトだって、水華が自分で言ってたんじゃんー」 「それならあたしは、魔族であり天のヒトなんだから。どっちも対抗できるなんてあたしくらいじゃない」  さらりと言う水華は、二つの有名な血統を幼少時から鍛えられている。類稀な聖魔両刀の魔法使いとして、一人立ちを果たした後だった。 「それって要するに、水華はどっちも中途半端なんじゃないの?」 「何でよ! アイツらだって半分人間とか、中途半端そのもんじゃないのよ!」  化け物の中でも、血統が旧く純度の高い者が「魔族」や「天界人」だ。それらと人間の混血は、数は少ないが、混血の方が強力なことはままあるらしい。 「そーだよねぇ。あまり人間の血が増え過ぎたらダメダメになるけど、ザイさん達みたいなハーフとかクォーターは、その揺らぎが振り幅になるって、おとーさん達は言ってたよ」 「知ってるし! だからズルイってーのよアイツら!」  神秘の王道、魔道を叩き込まれた水華は当然知る知識。それを知りつつ口にするラピには苛立ちしかない。 「あれー。偉いねェ水華、さすが賢い賢いー」  こうして、水華をからかうことを至上とするラピを、もう乗せられまいと不服気に睨む。
/425ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加