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 伊勢の宿に泊まった時に、養父曰く幻という、謎の瑠璃色の髪の娘に少年は出会っていた。養父が物憂げに、その後に教えてくれた。 「あれの正体は俺も気になってるんだが、視えてるはずなのに……いつもそれを思い出せないんだ」  その養女を引き取った頃は、度々現れたという謎の幻。近年は少なくなっていたのが、ここ最近また見かけるようになったと、溜息をついて言っていた。 「多分――そういう性質を持った何かなんだろうな」  その謎の幻の出現はおそらく、瑠璃色の髪の妹分の不調を表す。少年もすぐに察しはしていた。 「ユーオンも昔のこととか大事なこと、早く思い出せるといいね」 「……ラピス?」  そうやって困ったように微笑む妹分の深い青の目は、確かに澱みなく、まっすぐに少年を見つめていた。 「もしもそれが辛いことでも……ずっとそれから逃げることの方が、私はしんどいと思うよ」  その直視が本来、この瑠璃色の髪の妹分が望む在り方。  養父が帰って以来、こうした大人びた表情を見せるようになってきた妹分は、ただ少年が心配というように肩を竦めた。 「私も迷ってばかりだから、ヒトのことは言えないと思うけど。でも――この先笛が使えなくなったら、さすがにみんなと……おとーさん達と一緒にいるのは、諦めようと思ってるんだ」 「……――」 「普段は考えないようにしてたけど、ずっと迷ってた。自分が足手まといってことから逃げてきた。だって……そうしないと、私は独りになっちゃうから」  けれど、と、妹分は穏やかな顔で笑う。 「それでユーオンに無理させたって、最近わかったよ。それは嫌だから……誰かに無理をさせるなら、私はいなくならないと」  無意識にPHSの入る腰元の袋を触りながら、そう口にする拙い姿。  その時の妹分の顔が、あまりに何処か、儚げだったせいだろうか。 「そんなの……ラピスが気に病むことじゃないだろ」  淡々と少年は、痛ましい心で、妹分を見つめ返した。 「それはラピスのせいじゃない。オレが勝手に自分で決めて、そうしたいって思ったことなんだから」
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