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少年の脳裏にはただ、少し前の白い娘の微笑みが浮かぶ。
――ラピスのそばにいるって、約束したよね?
「レイアスだってアフィだって……ツグミやクヌギ達だって。ラピスにそうしてほしいなんて、誰も思ってない」
弱小な人間である身を、妹分は足手まといと呼ぶ。だからいつか、彼らの前から消えるという妹分を、少年は引き止めたい思いだけで言う。
――ラピスの敵を殺してくれれば、ここにいられるんだよ。
「ラピスがそうしたいなら、誰も止めることはできないけど……独りが嫌だって、思っちゃいけないのか?」
「…………」
少女の深い青の目に映る、誰も知らない少年への罰。
少年が本来在った場所へは、最早二度と戻れはしない。大切なはずだった誰かに近い誰かはいても、それは少年の知るものでも、少年を知るものでもない永遠のすれ違い。
「できることがもしもあるなら……オレはラピスの力になりたい」
「ユーオン……」
「でも……ラピスが迷ってる気持ちも、オレはわかる気がする」
その別離と残留は結局、どちらを選ぼうと辛い道。少年は目を伏せて言うことしかできなかった。
「独りも嫌だけど、ここにいるのも辛いなら……ラピスの敵は……多分ラピスなんだ」
妹分には少なくとも一人、妹分の存在を脅かす者がいる。その迷いをもしも断ちたいのなら……妹分がそれを望むのなら。
その時少年は、ある者を殺さなければいけないと知っていた。
「……そうだね、本当に」
瑠璃色の髪の妹分は少年から目を逸らし、目前の空を見上げる。
「水華なら多分、一緒にいても大丈夫な気がするけど。水華は嫌がるだろうなぁ」
少し安らいだ顔で笑う妹分に、少年もそこで少しほっとしていた。
「そーだよな。何かあればすぐにも見捨てて逃げそうだしな」
あの茜色の髪の少女については、何故か妹分も、少年のように背中を預けられる。寄りかかることすらできるのだろう。
同じ思いを持った彼らは、互いに困ったように笑った。
「それがいいんだろーね、私もユーオンも」
その迷いは続いていくとしても。瑠璃色の髪の妹分は確かに、そこでは平和に――幸せそうな顔で、妙なる色合いの空を見つめていたのだった。
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