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 赤い天使の攻撃を防ぎ、地に降り立った養父は、瑠璃色の髪の妹分をかばいながら警鐘を発した。 「注意しろ! 来るぞ!」  森の中という、空からの攻撃には遮蔽物も多い場にも関わらず、赤い天使は重力を味方にした力と速さで、黒い刃を落下しながら振り下ろしてくる。 「ちょっとこいつー! 反則―!!」  その袈裟がけの刃をまたも養父が、長剣を振り切って跳ね返す。ぶつかる力の余波が周囲を襲い、茜色の髪の少女が辛うじて衝撃を中和していた。 「生きてないくせに、どっから出てんのこの力!?」  それが生き物であれば、気配で自身も奇襲に気付けたはずだ。少女は悔しげに赤い天使を見上げる。  魔法が無効と知っているため、防戦の構えをとる少女の横で、剣を構える養父は苦々しい顔で初見を伝えた。 「あれは『力』の塊だ――媒介は鎧だが核はここに無いな」  だからこそ、「力」に敏感な男は奇襲に気付けたのだ。 「それじゃ弱点無しじゃない! こーいうのって動く力の源を壊さなきゃどーしよーもないでしょ!?」  それならその赤い天使を止めるには、完膚なきまでに破壊するしかない。それなのに武器の攻撃も力も通じない赤い天使に、養父にも少女にも緊張が走った。 「……!」  少年と妹分の前、赤い天使と攻防を交わす養父と少女に、少年も妹分も立ち尽くすしかできなかった。 「あの速さじゃ……銃も当てられそうにないよ――」  特別、射撃が得意なわけではない妹分はぎゅっと手を握り締め、悔しげだった。高速飛行から攻撃に移ることが得意らしき、殺戮人形の赤い天使。その姿に少年は既視感を覚えたが、それでもその天使のことが全くわからなかった。 「何で……何も――……」 「――ユーオン?」  ――何も観えない。それだけを少年は呪うような声で口にする。 「なんて――……つかえないヤツ……」  いつかと同じ……ただ強い吐き気と痛みをひたすら噛み殺した。  ここに至るまで気が付けなかった、自身の現状把握の不調。その勘の良さは迷いなき時に強く働くことを、迷いだらけの今の少年は、思い至ることすらできていなかった。
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