直前  -the calm tempest-

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「クアン君って本当、優しいを絵に描いたみたいな美少年さんだったよねぇ。それなのに芯も強そうで、何か尊敬しちゃうなあ」  天のヒトってそんな感じなのかな? と、ラピが儚げに笑う。 「別に生まれは関係ないでしょ。大体アイツ、ザイの甥だし」 「そーかなぁ? 確かにザイさんも物静かで優しかったけど、怖い所も持ってるヒトだと思うな、やっぱり」  「魔族」はヒトから奪う悪魔。それはよくある認識だ。しかし「天界人」は存在をあまり知られておらず、代わりに近いイメージで知られる「天使」を思えば善なるものと、ラピは考えているらしい。 「あれだけザイに懐いておいて、よく言うわよ」 「え? 私そんなに、ザイさんに懐いてた?」  そこで本気で不思議そうにするラピに、こいつ……と、水華は両目を怪訝そうに細める。 「むしろ逆だけどなぁ。ザイさんには甘えちゃ駄目だなーって、ずっと思ってたんだけどな」 「それは知ってる。つか南のヒト全員にそうだったし、あんた」  あはは、といつも通り笑うラピは、何の屈託も無かった。 「だってザイさん、死んだお父さんにそっくりなんだもん」  そうしてあえてブレーキをかけていた理由を、あっさり口に出した。 「でもだからこそ、お父さんじゃないってわかってないとだし。大体、ザイさんは水華の獲物だもんね、狙っちゃダメだよね」 「意味わかんないし。ヒトのせいにするなっつーの」  ラピが何を言いたいかは薄々感じつつも、ぴしゃりと否定する水華だった。  一しきり水華をからかい満足したのか、ラピは最初のように、これで良かったの? とまた口にする。 「ユーオン迎えに行くくらい、私一人で大丈夫だよ? 元々、私の家だってジパングだから、後は帰るだけだし」 「知ってるし。あんな危ないの野放しにしたら、あんた一人で止められるわけないでしょーが」  だから付いてってやってんの。と恩着せがましく言う水華に、ラピは一瞬、キョトンとした後……柵から降りてまで、お腹を抱えて笑い出した。
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