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 その一瞬の隙を作るためだけに。少年は青銀の吸血鬼の旧い仲間が書いた札を選び、容赦なく利用することを決めた。  初見から相手の弱点を看破し貫く、天性の死神。  奇襲たる初撃こそが、最も重要な殺し時とわかっていた。あくまで相手の必殺を目論むのなら。 「――え?」 「――は?」  揃って少し離れた場所に降り立った茜色の髪の少女と、瑠璃色の髪の妹分が少年を見る。突然地面が揺れ出したため、手近な木に掴まっていた。  そして呆気ない一瞬。早過ぎる決着を、茫然と見守ることになった。 「――……――」  青銀の髪の吸血鬼が、こみ上げる血と共に膝を崩す。胸を背から貫いた一手――刃のように鋭い蒼白の札が、失速して舞い落ちるのを見つめていた。 「……なるほど――」  地表を揺らす青の守護者の札を囮に、別に放たれたもう一つの札。青の守護者の長男が書いた、闘志の札を凶器に替えた「力」の、出処の秘密。 「『刃の妖精』……その力、オマエは手に入れてたんだ――」  その「剣の精霊」は最早、精霊の使えない精霊族ではなかった。それに気付いた敏い吸血鬼の最後の呟き。  そうして、青銀の吸血鬼が抵抗する力をほぼ奪った直後に。  その甘さと仲間への思いだけでない、この吸血鬼が本来持つ弱味に、金色の髪の少年は冷徹にとどめを加えた。 「――!」  瑠璃色の髪の妹分が思わず口元を押え、驚きの声を抑えていた。三日月型の得物を持っていた青銀の吸血鬼の腕が、剣を抜いた少年によって斬り飛ばされていた。 「――うわ。まじで鬼ね、あの金ピカ目」  何やら紫の目に、普段と違う金色の眼光を少年は伴っている。それは普段の金色の髪の少年……省エネモードと少し違うと少女は気が付いていた。 「あの色ならひとまず、体は動かせるわけ? まどろっこしい……銀が出てくりゃ早いじゃないの、それ」 「でも――アラス君、倒れちゃったね……?」  妹分が確認していた通りに、腕を失った瞬間、その吸血鬼は糸が切れたように、意識と体の自由を失い倒れ込んでいた。 「信じられない。アイツ、守護者を殺せちゃったわけ?」
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