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 吸血鬼の敗北は胸を貫かれ、腕を斬られたためではなかった。腕が持った三日月型の武器――宝珠を填めた得物を失ったからだ。  紫金の目の少年は、光の散らつく澱んだ目線を向ける。完全に倒れ、全ての身体活動を止めた吸血鬼を無機質に見下ろしてた。 「アンタはオレが――剣が無いとダメだって、知ってたよな」  それを言った吸血鬼も、宝珠無しでは生き物として成立しない、旧い弱味を持っていたのだ。それを初見から少年は気が付いていた。だから吸血鬼から宝珠を切り離した。 「アンタは何で……ここまで来たんだ――……」  この聖地では、魔の者である吸血鬼は全力が出せないはずの現実。そのため、青年から少年の姿へ戻っていたのだろう現状も。  ――おやおや、と。  一瞬の攻落後に、場に元からいた者の嘆息の声が響いた。 「可哀相に。やはり心を残した人形は哀れですね」  あまりに容赦なき速断だったため、助けに入る暇も無かった。白銀の髪の神父が楽しげに笑って現れていた。 「――出たわね、エセ神父!」 「久しぶりですね、水華さん。その節はお世話になりました」  神父の後方、この島で一番大きな建物の入り口付近に、黒髪の幼子と銀色の髪の吸血姫が立っている。遠目で表情はわかりにくいが、倒れた吸血鬼を沈痛に見つめているようだった。  幼子は元々無表情だが、それでも強く顔をしかめていた。 「ひどいな……優しい兄さんなのに」  猫のぬいぐるみを持つ幼子が、空いた手を軽くあげる。人形が一体場に舞い降り、斬り飛ばされた吸血鬼の腕と武器を拾って幼子の元に帰っていた。 「……持っててね」  そのまま建物の内にいるらしい者に、その腕と武器を渡したのだった。  その幼子の姿をはっきりと、少年は元の紫に戻った目に映す。  幼子に付き添う吸血姫の出現にも、強い動揺で胸が波打っていた。
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