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 しかし少年が、そんな内心の嵐を味わう暇もなかった。 「ここで会ったが百年目! 覚悟しなさいアンタら!」  せっかく少年が守護者を攻略したのだ。白の魔法杖を振り上げた茜色の髪の少女の周囲から強い風が巻き起こった。見えない巨大な爪となって神父に襲いかかる。 「――!」  四方から逃げ場なく襲い来る風刃に、防御の力を張る神父が顔を歪めて笑う。 「ああ――そう、この風ですね」  神父が輪杖を取り出し力を集中する。防ぎ切れない強い風に、長い着衣は切り裂かれ、眼鏡も飛んで素顔を露わにしていた。 「君は相変わらず、風を使うのがお好きですね」 「は? 何言ってんのよアンタ」  更に追撃を行う少女の風を、致命傷を避けてやり過ごすだけの神父の姿。まだまだ余力のある少女は圧倒的な余裕で佇む。 「東でちょっとやり合っただけじゃない。あの時は風なんて、ちょっとしか使ってないし」 「それで十分ですよ。水と火は、君の今の力の方が濃いですが……風は元々、君のその躰には有り得ない力ですから」  今この場には、大きな建物の入り口に幼子と吸血姫と、近くに倒れた吸血鬼、かなり離れた所に少年と妹分が飛竜に守られるように並び立っている。その間で茜色の髪の少女と神父が、数メートルの間合いで睨み合って対峙する状態だった。  聖地で力が弱っていると観える、魔の気を纏う神父は……不意に天使のように清らかな顔で、前の少女に微笑んでいた。 「ミラはホントに――風を読むのがいつも巧いな」 「――は?」  突然何故か口調の変わった相手は、その姿までも一瞬、大人の男から大人びた少年のような真影が重なっていた。 「――!?」 「え? 何だろ今の?」  そう観えたのは少年だけでなく、人間の妹分もそれに気が付いていた。それなら確実に茜色の髪の少女も、その変貌を間近で目にしたはずだった。  顔形まで穏やかな目鼻立ちに変わった、神父の変貌は一瞬だった。にこりと神父は、いつも通り鋭い顔で再び笑う。 「ユオン君はまだ――君達に何も話していないんですね」  強く顔を顰める少年に気付きながら、神父は少女だけを見つめている。そうして神父は、彼が待ち続けた、旧い物語をそこで話し始めた。
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