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 少女にはまだ余裕があり、元々剣士として鍛えられた少女は、近接戦で後れはとらない。それを知りながら少年には焦りが噴き出していた。 「ミズカはあいつと戦わせちゃいけない――」  そう思うにも関わらず、足が動かない迷い。それにも同じくらい強い焦りが湧き出してくる。  既に少年は、ここに来るまで力の札を三枚使っている。  養父の言では一日五枚以内に抑えるべきなら、この後のことを考えれば、今は体力を温存すべきこともわかってはいた。 「でも――……」  殺さなければいけない。あの吸血姫は確実に敵であると。 「あいつはオレが……殺す、べきなんだ――……」 「……ユーオン……?」  少女に再び襲いかかる、銀色の髪で赤い目の吸血姫。まるで目を奪われたように、少年の視線はそこに固定していた。  それでも結局動けない少年の前で、少女は吸血姫と攻防を続けた。 「あーもー! 腕力だけはあるんだから、こいつら!」  俊敏な動きで怪力じみた爪を避けながら、少女は白い魔法杖に、剣並みの切れ味を持たせるための力を込める。 「たとえあんたが、あたしの起源(オヤ)の一人だろーと――そんなの知ったこっちゃないし!」  既にその可能性は思い至っていた、頭の回転が速く敏い少女。 「あたしの邪魔をするなら、誰だろうと容赦しない!」  今度は少女から攻撃に転じ、銀色の髪の吸血姫に白い魔法杖で大きく斬りかかった。 「――!」  少年はその当然の流れに、瞬時に緊迫していた。 「駄目だ、ミズカ――!」 「ユーオン!?」  やっと駆け出した少年に続き、妹分も飛竜を連れて追いかけてくる。その先で展開した思わぬ光景に、どちらもすぐに、立ち止まることになった。 「って――なっ!?」 「――……」  少女の白い魔法杖を、吸血姫は爪を防具に受け止めていたが……。 「クレスントがっ……クレスントを折るなんて――!?」  そこで鍔迫り合いの状態となった、爪と魔法杖は――白い魔法杖が突然折れるという結末となり、少女は場から反転して離脱していた。
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