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「――そう言えば、言い忘れていましたが」
魔法杖が折れたことで、風の渦から解放された神父がにこりと笑った。そうして代打の吸血姫にも離脱を指示する。
「彼女の躰は北方四天王ですが……中身の吸血姫は、元々東の四天王の弟子なんですよ」
「――!?」
茜色の髪の少女も一旦、少年と妹分がいる所まで退き、悔しげに顔を上げる。
「魔物としてのレベルは君に遠く及びませんが、彼女が持ったその爪は、東の四天王の『地の力』を賜った強力な武器です。固体なら何でも破壊可能な、彼曰く斬鉄剣らしいですよ?」
初めからそれが目的というかのように、神父は折れた魔法杖を、歪んだ微笑みで見つめていた。
「君のように複数系統の力を持つ者は、身の内で常にそれらが鬩ぎ合う状態ですから。君はおそらく、その杖無しには力を使うな――そう言われてはいませんでしたか?」
「っ――……!」
「道具の力で境界を定め、力の拮抗を保つのは良い方法ですが。その杖が無ければつまり……君は戦えないわけでもあります」
ぎり、と心底悔しげに歯を食い縛る少女だけではなかった。
少女が剣でなく、二本の杖を与えられた理由は救命処置だと、知っていながら動けなかった自身に少年は歯噛みする。
「……生憎だけど! 戦えないなんてこと、あたしにはないから!」
「って、水華!?」
隣で驚く妹分をものともせずに、少女は最大限に――その背の光の羽を大きく広げた。
「クレスント使って、手加減しよーなんてあたしがバカだった。もー頭来た、アンタ達まじで死刑確定!」
「ミズカ――待……!」
少年や妹分が止める間もなく、少女はまるで流星のように光に包まれ、空へと駆け上がった。そのまま全身に風と炎を纏い、不死鳥のような姿で燃え上がった。
「……おやおや?」
そこで神父はすぐに――己の次瞬の運命を悟り、軽く微笑みを見せた。
まさに人間隕石となった大胆過ぎる少女が、神父のいた場所に突撃した。直後に場には、衝撃波と熱波が大きく吹き荒れることになった。
「――!!」
「うわぁっ」
しかし少年と妹分は、防御に徹せば力なら相殺できる飛竜にかばわれ、妹分が多少驚きの声をあげる程度の被害で済んだ。
「あいたたた……もー、加減間違えたー、ったくー!」
煙がこうこうと舞っている中、茜色の髪の少女は、服のあちこちが裂け焦げていた。しかし大きな怪我はなさそうに、凹んだ地面に座り込んでいた。
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