直前  -the calm tempest-

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「有り得なーい、水華が心配とか有り得なーい! ていうか絶対、ユーオンより水華の方が危険度上だしー!」  昨春にラピの養父母に拾われた少年。十四歳のラピには一つ年上で、兄貴分にあたるユーオンは、基本的には穏やかで平和な笑顔の似合う、金色の髪の少年だった。 「そもそもユーオン、水華とは比べ物にならないくらい弱々なのにー」 「何言ってんだか。アイツ弱いのは普段だけで、銀が起きたらあっさり人死にが出るわよ」  少年は時により、その髪が銀色に変わり、無表情で物言わぬ死神になる。それは数度しか会っていない水華にもわかるほど、ラピに危機感を持たせていた。 「うんうん。鶫ちゃん曰く『花の御所』でも何回か銀色さんになって暴れちゃったみたいで、ホントに頭が痛いよー」  ただしそれは、ユーオンが危険だからというわけではなく……。 「ああもぉー、鶫ちゃんと蒼潤(そうじゅん)君のご両親に、どれだけ謝ればいいんだろう、私。五ヵ月近く御所に居候なんて信じられない、ユーオンてば」 「何でそんな、あんたが謝る必要があんのよ」  およそ半年前に、ラピは養父母の急な出張と同時期に、水華と共に唐突な旅に出た。何も知らずに一人で家に残されたユーオンが、事もあろうにジパング有数の管理階級の居所、「花の御所」に転がり込むとは。 「私が紹介するって言った時は見向きもしなかったくせにぃ。何処で鶫ちゃん達と知り合ったのよー、ユーオンのバカぁ」  唸るラピは先程と違い、今度は最上段を足場にしゃがみこんでいる。 「つか、柵降りなさい、柵」 「私だって御所にお泊りすらしたことないのにぃー。羨ましい、じゃなかった不届き者めぇ」  怒ったように言いつつ顔は笑い、頭が痛いと眉をひそめながら、ラピが全身ではしゃいでいることが水華にはわかった。
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