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あらまぁ、と。
場に突然、そうした一部始終を見ていたらしいある乙女の声。無力が故に、誰にも気付かれにくい偵察者の発言が響いた。
「怖いコ達ね、本当に……ねぇ、ソール? ミカラン?」
「――!!」
座り込んだ妹分の横に立った少年は、その土色の髪の乙女の姿を一目見て背筋が強張っていた。
「私達はまだ、貴方達を全然傷付けてないのに。私達の方は、もうぼろぼろだわ……いったいどちらが悪魔なのかしらね?」
三日月型の武器を、黒の守護者が倒された後から預かっていた乙女は、建物の内でずっと様子を窺っていたらしい。
少年が花の御所にいた頃に、しばらく御所に滞在していた者。陽炎と名乗った、肩までの癖の強い土色の髪の、着物姿の乙女が入り口に現れていた。
黒髪の幼子は、出て来た乙女を不思議そうに見つめる。
「……死んじゃうよ? 隠れてたらいいのに……」
「あらまぁ。ソール、『ピアス』はどうしたのよ?」
「帰ってこない。まだあのヒトが気になって、捕まってる」
「そう。それなら確かに、私達の命運も尽きたかしらね?」
乙女は最初、緊迫した顔の少年を見てそう口にしていた。
しかしそれは誤りであると――次の瞬間、目にすることになる。
……え? と。
しばらく俯いていた瑠璃色の髪の娘は、一番早くにその異変に気が付いた。
「水……華?」
正確には少年も、土色の髪の乙女がここに現れた時点で、その展開になることは察しがついていた。
しかし実際に――仲間の少女がそこまでなりふりかまわずに。
これまでの己を投げ打ったような行動に出るとは、少年も予想できなかった。
そんなあまりに様々なことが、立て続けに一行を襲うのは――
一度崩れた薄氷の下には、いくつもの呪いが眠っていたこと。
それが観えながら何もできなかった少年を責め立てるように、昏く赤い夢は目を醒まし始める。
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