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 全ての憂い事がここで消えると、全員がわかっていた。  少年や妹分は元の生活に戻り、茜色の髪の少女は宝珠を手中に収める。  何一つ問題のない、望ましいはずの展開――  そのためにここまで来たはずの少年は…………しかし。 「やめてくれ――」  飛竜の懐でもがきながら、少年は、有り得ない叫びを口にする。 「やめてくれ、水華――!!!!」  在ってはいけない己が衝動が、何処から来るのかもわからないまま。少年は飛竜の欠けた右手の隙から、浮遊する氷剣の嵐の前に飛び出していった。  研ぎ澄まされた短剣の陳列ように。その氷の刃はただ美しかった。  まるで彼らがそれまで在った、薄氷を削り出したような軽さ。紅い少女は事も無げに、虐殺の黒い力を敵全てへ向ける。  五行でも五大要素でもない、氷という複合属性の力。  それは紅く造られた人形の少女が、起源となる強い魔の者――水と氷を操ることに長けた北の四天王、銀色の髪の吸血鬼から確かに受け継いでいた力だった。 「……え……?」 「…………」  一しきり氷剣の嵐が降り注いだ後で。飛竜に匿われて難を逃れた瑠璃色の髪の娘と、飛竜の元に戻ってきた紅い少女が、呆気にとられた顔を見せた。  二人は共に、目前の光景を、信じ難いという目付きで眺めることになる。 「ユーオン……?」  何で――……と。妹分が思わず、茫然と呟いてしまった前で。 「…………――」  「火」と「土」と「木」の札を咄嗟にまとめて使い、その上に術封じの札まで加えた防壁。青白い光を放つ剣を真正面に構え、完全に氷刃を防いでしまったもの。 「……ごめん、ミズカ――……」  襲い来る氷から敵を守り切った、金色の髪の少年の姿がそこにあった。
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