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「んーで……後一人は?」
「え?」
「PHSの奴のこと。ソイツが一番、最初に会ったんでしょ?」
「そうだけど……くーちゃんはまず御所の人じゃないしなぁ。着物も着てないし、ジパングのヒトなのかも実はわからないよ」
ラピは、友人達を語る際には必ずそこでトーンダウンしていた。
その相手こそが大きい存在だろうに。最初に声をかけてくれ、友人など作る気のなかったラピを御所の者達に紹介し、仲良し組に混ぜ込んだ張本人で……今も度々、PHSで連絡をとる間柄なのだから。
ラピのPHSの待ち受け画面は、深型の帽子がよく似合う、明るく優しげな笑顔のその少年だ。特別な存在であることはわかりきっている。
「くーちゃんのことは、若い薬師さんってくらいしか知らないなぁ」
無邪気に見えてしっかりしてるんだよ、と、これまでより落ち着いた様子でラピは口にした。
「あ、でもたまに、想像力が暴走しちゃうと凄く面白いんだよ。風が吹けば桶屋――とかでも、お風呂に穴が開くと大変だよ!? 気付かずに追い炊きして火事になっちゃったらどうしよう!? ご近所さんに何て謝ろう!? みたいな、お人好しさんなの」
「……」
ラピがPHSでその少年と話す時は大概、そうした話題で更に相手を煽るらしい。
――ダメだよ、くーちゃん! お風呂ってことは大体夜だよね、黒焦げ姿でご近所訪問なんて、お隣さんショック死するよ!
――えええっ!? つまり風が吹いたら僕、殺人犯決定!?
そんな無害なやり取りを好み、相手に深入りしようとはしない。
「……要するに、あんたがたまに突拍子のないこと言い出すのは、ソイツのせいなわけね」
「えー? それどういう意味、水華?」
珍しくキョトンと、ラピが水華を見下ろす。いつも絶えない笑顔は、まるでPHSの少年を写したようだと、以前から水華は感じていた。
そこで話題を変えるように、京都はいい所だよ! とラピは、何度目かの口上と共に笑った。
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